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13時間、波にしがみついた人が、艇を出す側になるまで — ベトナム・ゲアン省の無料救助隊

2025年7月30日、ベトナム中北部ハティン省の海水浴場でのことだった。グエン・タン・トゥンさん(35歳)は、6歳の娘とサップボードで遊んでいた。波にさらわれ、二人は沖へ流された。

「父娘でライフジャケットを着て、波のなかでサップにしがみついていました」。トゥンさんは後にそう振り返っている。「一晩じゅう寒さのなかでボードを離さずにいた。怖くて、疲れきっていた。もう死ぬと思いました」

13時間近く漂流したあと、通りかかった貨物船に救助された。

「もし生き延びたら」

助かった人が、その後どう生きるか。トゥンさんの場合は、はっきりしていた。

「私たちを救ってくれた人たちは、もう一度いのちをくれたのです」と彼は言う。「あの日、私は約束しました。もし生き延びたら、危険にさらされている誰かを助けるために、何か意味のあることをしようと」

そのころ、地元ゲアン省で長く慈善活動をしてきたチャン・キム・ズンさん(1976年生まれ)と出会う。ズンさんが呼びかけて資金を集め、二人で合計5,000万ドン(約1,900米ドル)を出し合い、空気で膨らませる救助艇と救助用具を購入した。

そして親しい仲間10人に声をかけた。「無料救助隊 TUNGTIME」の誕生である。

隊員たちの合言葉は、こうだという。「与えることが生きること。すべては過ぎ去るが、優しさだけが残る」

昼はコーヒー、夜はハンドル

この隊には、資金源がない。

トゥンさんは昼にコーヒーを売り、夜は車を運転して稼いだ金を、隊の運営費に充てている。救助はすべて無料で行われる。

ほかの隊員も同じである。全員がヴィン市に住み、生活には多くの困難を抱えている。それでも全員が、災難に遭った家族の痛みや喪失を少しでも分かち合いたいと願っている、と地元紙は報じている。

ズンさんの言葉が、その内訳をよく表している。

「私たち仲間はそれぞれ職業が違います。カフェを営む者、運転の仕事をする者……。でも誰もが、困っている人を助けたいという同じ気持ちを持っているのです」

裕福な人が余った時間を使って善行をしている、という話ではない。生活が苦しい人たちが、それぞれの稼ぎから少しずつを持ち寄って、救助艇を浮かべている。

設立一か月で、洪水の現場へ

結成から一か月と経たないうちに、隊は現場に立っていた。

2025年、東ベトナム海に来襲した10番目の台風ブアロイは、各地に広い被害を残した。トゥンさんたちは被災地に入り、洪水の救援に加わっている。ハティン省では行方不明になった1人の捜索にも従事した。

その後も、ハティンとゲアンの両省で複数の捜索活動に参加している。10月には、ラム川で行方の分からなくなった親子の捜索に加わった。隊は夜を徹し、二日間にわたって川を捜し続けた。日が経つほど生存の望みは細くなっていく。それでも隊は止めなかった。せめて家族のもとへ帰してあげたい、その一心だったと報じられている。

すべての遺体が家族のもとへ戻されたとき、トゥンさんと仲間たちは、ひとつの区切りを迎えた。

この仕事に、達成感という言葉は似合わない。トゥンさんは、川岸で泣き崩れる家族を見たときのことを話そうとして、言葉を詰まらせている。「知らせを聞いたとき、私たちは一刻も早く着きたいと思いました。間に合えば助けられるかもしれない。どんなに小さくてもいい、奇跡を願っていました。でも……」

娘を抱いて

2025年11月、ある新聞の記者が、何度も約束を重ねてようやくトゥンさんに会えた。

連日の捜索を終えたばかりで、彼はひどく疲れていたという。それでも記者に対し、TUNGTIME救助隊は今も、そしてこれからも無料で活動を続けると明言している。

小さな温かい家のなかで、トゥンさんは幼い娘を抱きしめていた。その子から力をもらうのだ、と。社会のために何か意味のあることをしようと決意する、その原動力なのだと語ったと、記事は伝えている。

13時間、一緒に波にしがみついていた娘である。

「死に直面したから、誰にも助けを聞いてもらえないときの無力さがわかるのです」とトゥンさんは言う。「だから、誰かが私たちを必要としているなら、昼でも夜でも、私たちは行きます」

この記事が触れられないこと

正直に書いておきたいことがある。

ここまでの記述は、すべて2025年10月から11月にかけての報道に基づいている。ベトナムの複数の新聞が、それぞれ別に取材した記事だ。ただし、その後の情報が確認できていない。隊が今も動いているのか、艇や装備が維持できているのか、トゥンさんが昼夜の仕事を続けられているのか。わからない。

こうした自発的な集まりは、たいてい脆い。装備が壊れれば買い替える金がいる。隊員の生活が立ちゆかなくなれば、続けられない。呼びかけた人が倒れれば、それで終わることもある。組織にも制度にもなっていないものは、たった一人の事情で消えうる。

それでも、11月の時点で彼はこう言っていた。今も、これからも、無料で続ける。

祈りによせて

助けられた人が、助ける人になる。言葉にすれば、ありふれた話に聞こえる。

けれどこの場合、その転回はひとりの身体を通って起きている。同じ人が、波にしがみつく側から、艇を出す側へ移った。しかも受けた恩を返す相手は、彼を助けた貨物船の乗員ではない。名前も知らない、これから水に落ちるかもしれない誰かである。

このサイトでは、住民が自分たちで会社をつくった話や、地域の貯蓄で消火の道具を買う話を紹介してきた。それらに比べれば、この隊はあまりに小さく、あまりに危うい。制度の裏づけも、補助金も、後継者の計画もない。あるのは艇が一艘と、11人の仲間と、昼夜働いて得た金だけだ。

それでも、誰かが川に落ちた夜に、電話が鳴れば出る人がいる。その事実は、制度の有無とは別のところにある。

助けを求める声が、誰にも届かないままにならないように。そして助けに行った人たちが、自分の暮らしを削り尽くさずにすむように。この小さな隊が、長く続いていきますように。

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参考・引用元

  • Tuoi Tre News「Paying it forward: Vietnamese man who survived 13 hours adrift at sea forms free rescue team」(2025年10月19日):news.tuoitre.vn
  • Tuổi Trẻ「Người từng trôi dạt 13 tiếng khi chèo sup trên biển lập đội cứu nạn miễn phí」(2025年10月17日):tuoitre.vn
  • Người Lao Động「Chuyện ít ai biết về đội cứu hộ TUNGTIME」(2025年10月16日):nld.com.vn
  • Người Đưa Tin「Những anh hùng thầm lặng – Bài 2: Lập đội cứu hộ miễn phí để trả ơn cuộc đời」(2025年11月13日):nguoiduatin.vn
  • ZNews「Bất ngờ danh tính người tìm thấy thi thể bé gái trên sông Lam」(2025年10月17日):znews.vn

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