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アフリカの言語でAIをつくる ― 南アフリカ「私たちが、自分たちの言語の守り手です」

2026年8月18日

ヨハネスブルグ、ロズバンク地区の共用オフィス。計算機科学者のジェイド・アボットという人が、ノートパソコンでチャットボットを開き、isiZulu語で1から10まで数えるように命じた。南アフリカで1,000万人以上が話す言語である。

結果は「ちぐはぐで、笑ってしまうほど」だった。isiZulu語の文をいくつか入力して英訳させると、これも「まるで的外れ」。

データの少ない言語をAIに含める試みは、これまでにも行われてきた。それでもこの結果は、技術が「まだ本当に私たちの言語を捉えられていない」ことを示している、とその人は言う。

世界の言語の3分の1が、そこにある

アフリカ大陸には1,000から2,000の言語がある。世界の言語のおよそ3分の1にあたる。

一方、英語を母語とする人は世界人口の5%にすぎない。それなのにウェブサイトの半分以上は英語と、ごく少数の西側の言語で書かれている。そしていま、AIの世界でも同じ偏りが繰り返されている。

数字で見ると事態はさらにはっきりする。研究者たちの調査によれば、アフリカの現地語2,123すべてが「低資源言語」に分類される。話者が1,000万人を超える31言語も例外ではない。既存の言語モデルが何らかの形で対応しているのは、そのうち42言語程度にすぎない。

エチオピアの計算機科学者アスメラシュ・テカ・ハドゥグ氏は、キガリで開かれたアフリカのAI会議で、母語のティグリニャ語でチャットボットに問いかけた。返ってきたのは、意味をなさない語の羅列だった。「まったく筋の通らない語を生成したんです」

その人は言う。「大手のテック企業は、私たちの言語に注力しません。でも、私たちは待っていられないのです」

なぜ「単語を置き換える」では済まないのか

辞書と文法規則を教えれば済む話ではないのか——そう思えるかもしれない。ところが、そうはいかない理由がいくつもある。

第一に、いまのAIは辞書も文法規則も持っていない。人間が書いた規則を適用しているのではなく、膨大な実例から統計的な規則性を自力で見つけ出している。だから実例がなければ、何も学べない。

第二に、文章の切り分け方が合わない。AIは文を「トークン」という断片に刻んで処理する。この刻み方は、学習データの多い言語に合わせて作られている。英語向けに作られた刻み器をズールー語に通すと、語が無意味な細片に砕けてしまう。

ズールー語やスワヒリ語が属するバントゥ語群では、動詞ひとつに主語も目的語も時制も相も法も、接辞として詰め込まれる。英語なら5語も6語もかかる内容が1語になる。その1語を機械が破片に切り刻めば、意味は消える。断片が増えるぶん処理は遅く、費用も高くつく。名詞には15から20種類の「クラス」があり、文中の他の語がそれに一致して変化する。語を1対1で置き換える方式では、この仕組みは再現できない。

第三に、声で意味が変わる言語がある。ヨルバ語、イボ語、アカン語などは、同じ綴りでも声の高低で語義が分かれる。しかし日常の書き言葉では声調記号が省かれがちで、書かれた文字だけでは区別がつかない。

同じ「アフリカの言語」でも、困難の中身が違う

ここで注意しておきたいことがある。アフリカの言語をひとまとめにして語ることはできない。

ある研究が、AIの成績を言語ごとに測った。最も成績の良かったアフリカーンス語は、最も低かったバンバラ語より22.9から56.1ポイントも上だった。

理由は言語の優劣ではない。アフリカーンス語は英語と同じゲルマン語派に属し、英語の学習成果が転移しやすい。しかもデータが比較的多い。対してバンバラ語が属するマンデ語派には、「資源の豊かな言語」が一つも存在しない。足がかりを借りてくる相手がいないのである。

バンバラ語は小さな言語ではない。母語話者420万人、第二言語話者約1,000万人、合わせておよそ1,400万人。マリの人口の8割が第一または第二の言語として使う、国語である。文字もある。ラテン文字による公式の正書法があり、1949年にソロマナ・カンテという人が創案した固有の文字「ンコ」もあり、アラビア文字で書く伝統もある。

それでもデジタルのテキストは乏しい。この言語の歴史の多くは文字に記されず、口承で受け継がれてきた。書き文字が広く導入されたのは19世紀末以降のことである。3系統の文字があるということは、同じ言語のデータが表記ごとに分散するということでもある。そしてマリの公用語は、いまもフランス語である。

つまりAIの成績の差は、多くの場合、その言語がこれまでどう扱われてきたかの記録なのだ。

いちばん必要な人から、いちばん遠い

研究者たちが並べた数字は、静かに重い。

世界の貧困層の66%はアフリカに住む。そのうち66%はインターネットに接続できない。そして80%は英語を話さない。

仮に接続できて、最新のAIの利用料を払えたとしても、英語の読み書きができなければ使えない。AIから最も多くを得られるはずの人々に対して、AIは最も当てにならない。研究はこれを「とりわけ悲劇的」と表現している。

さらに、データの乏しい言語では、AIが事実でないことを流暢に述べる現象が、より深刻に現れることも分かっている。

「私たちが、自分たちの言語の守り手です」

2019年、アボット氏はデータ科学者のヴコシ・マリヴァテ氏とともに「マサカネ」を立ち上げた。isiZulu語で「私たちは共に築く」という意味である。汎アフリカの草の根の取り組みで、いまや数千人のボランティア研究者と技術者が参加し、45を超えるアフリカ言語の翻訳システムを公開してきた。すべてオープンソース、共同体第一を掲げている。

そこから生まれたのが、南アフリカの企業レラパAIである。アボット氏と、生物医工学出身のペレロ・モイロア氏が共同で創業した。

2023年に公開した「ヴラヴラ」——Xitsonga語で「話す」を意味する——は、音声を文字に変換し、文中の人名や地名を判別する道具だ。当初はisiZulu語、アフリカーンス語、Sesotho語、英語の4言語に対応し、その後、方言や都市部のコードスイッチング(一つの文の中で複数の言語が混ざる話し方)まで捉えるようになった。

モイロア氏は、アフリカの言語に対応せず、アフリカ人の名前や地名を認識しないAIが、人々を経済的な機会から締め出していると指摘する。「私たちは現実の問題を解こうとしています。そして、力を私たちの人々の手に戻そうとしているのです」

そして、こう続けた。

「私たちは自分たちの言語の守り手です。ならば、その言語のために働く技術をつくるのも、私たちであるべきです」

ネットから集めない、という選び方

この取り組みの特徴は、データの集め方にある。

マリヴァテ氏によれば、西側の企業のようにインターネットだけからデータをかき集めるのではなく、オンラインでもオフラインでも、言語学者や地域の共同体と一緒にデータを集め、注釈をつける。そして、その道具が問題を引き起こしうる用途を、あらかじめ特定する。

自然言語処理を専門とするボナヴァンチュール・ドッスー氏は、言語学者と組むことで、文脈に即し文化的に妥当なモデルがつくれると言う。「文化的な感受性と言語学的な視点を埋め込むことが、技術の仕組みそのものを良くするのです」

時間も費用もかかるやり方である。だが、ネットに存在しない言語を扱う以上、他に方法がない。そしてこの手間こそが、精度の差になって現れる。

金がないから、小さく作る

資金の話をしておきたい。

アフリカのAI起業家たちは、長く資金難に置かれてきた。「アフリカのテック系スタートアップの中で、AIはもっとも資金を得られていない分野です」と、音声技術企業AJALAの創業者アバケ・アデンレ氏は言う。市場が小さいと見なされ、政治的な後押しもなく、通信インフラも弱い。

レラパAIが2023年2月に調達したのは250万ドルだった。この業界の水準では控えめな額である。そして企業情報を集めた各社の記録を見るかぎり、それ以降の新たな調達は確認できない

ところが、その制約が、技術の選び方そのものを変えた。

世界のAI開発は、より大きなモデルを、より多くの計算資源で走らせる方向へ進んできた。電力も、設備も、費用も膨らみ続けている。レラパAIには、その競争に参加する資金がない。だから逆の道を選んだ。小さく、効率よく、限られた環境でも動くものを作る、という道である。

同社が公開した「インクバLM」は、アフリカ初の多言語小規模言語モデルだとされる。さらに「ブズズ・マヴィ・チャレンジ」という公開の取り組みを通じて、このモデルの大きさを75%削りながら、能力を損なわなかったと同社は報告している。翻訳・文字起こしのヴラヴラも、運用にかかる費用を大きく下げる設計で、重い設備を持たない政府機関や公共機関でも使えることを狙っている。

これらの成果は同社自身の発表によるもので、第三者による検証は確認できていない。それでも、掲げている考え方ははっきりしている。AIが、潤沢な計算資源を持つ者だけでなく万人に届くものになるのなら、こういう作り方をするしかない——と。

電力が安定せず、通信が細く、機器も古い。そういう場所で本当に動くものは何か、と考えれば、小さくて軽いことは弱点ではない。資金がないから小さく作る、が、小さく作るほうが届く、に変わっている。

声から入る、という発想

もうひとつ、重要な視点がある。文字にこだわらない、という考え方だ。

Googleリサーチのアブドゥライ・ディアック氏は、こう指摘する。「大陸には、読み書きができない人がたくさんいます。音声こそが、技術への入り口なのです」

デジタル技術は長いあいだ、識字とキーボードと文字を中心に組み立てられてきた。しかしアフリカでは、言語は市場で、農地で、診療所で、家庭で、会話として生きている。従来の機械翻訳は、二つの言語で対応づけられた文の対を必要とするが、資源の乏しい言語ではそれ自体がほとんど存在しない。

2026年2月、3年の開発を経てGoogleが公開した音声データ集「WAXAL」は、この発想に立っている。名はウォロフ語で「話すこと」。200万近い録音、11,000時間を超える音声を収め、ハウサ語、ヨルバ語、ルガンダ語、アチョリ語など21のサブサハラ言語を対象とする。

データを集めたのは、ウガンダのマケレレ大学やガーナ大学といった現地の大学である。そして——データの所有権は、それぞれの現地の提携先に残る。ディアック氏は言う。「私たちが提供したのは、主に指針と資金です。このデータ集は私たちのものではありません。一緒に働いた提携先のものです」

ガーナでは、同種の音声収集の取り組みから、現地語で使える妊産婦向けの健康相談の仕組みが生まれた。さらに、ろう者や脳卒中の後遺症のある人など、標準的でない話し方をする人々への対応にも広がっている。

大手が入ってきた、その先

ここに、答えの出ていない問いがある。

2026年、Microsoft、Google.org、ゲイツ財団がマサカネと組んで「LINGUA Africa」を立ち上げた。40のアフリカ言語について、開かれた文化的に根ざしたデータ集をつくることを目指している。資金も計算資源も、これまでとは桁が違う。

長く資金に恵まれてこなかった側にとって、これは朗報である。同時に、依存を生まないかという疑問も立つ。ディアック氏自身がその緊張を認めたうえで、こう述べている。「いちばん大事なのは、置いていかれないことです。私も自分のデータが悪用されるのは絶対に嫌です。でもこれは、起業家や研究者が本当に重要なデータで仕事をできるようにする、という話なのです」

マサカネの内部でも、同じ議論が続いてきた。搾取の長い歴史があり、南と北の力の不均衡はいまも続いている。データが悪用される懸念は現実のものだ。それでも今のところは、大手が自分たちの言語に取り組みやすくなるという利益のほうが上回る——そう判断した、と科学誌は伝えている。

結論ではなく、判断の途中経過である。正しかったかどうかは、まだ誰にも分からない。

祈りによせて

言葉が通じないということは、その人の考えや願いや痛みが、そこにないことにされるということです。1,400万人が話す言語で問いかけても意味をなさない答えしか返ってこないとき、失われているのは便利さではありません。存在の手ざわりのようなものです。

ヨハネスブルグの共用オフィスで数字を数えさせた人がいて、キガリの会場で母語を試した人がいて、そこから「待っていられない」と言って自分たちで作りはじめた人たちがいます。ネットに落ちていないなら、村へ行って集める。言語学者と一緒に、一語ずつ注釈をつけていく。気の遠くなるような手間ですが、その手間を惜しまないことが、いまのところ唯一の道のようです。

技術が誰かを置き去りにするとき、置き去りにされた側が自分で作り始める。しかも、大きさを競う道ではなく、小さくても確かに届く道を選んで。その営みが、資金の桁に呑まれることなく続いていきますように。世界のどの言葉で話しかけても、その人がちゃんとそこにいると分かる。そんな日が少しずつ近づきますように。南アフリカに暮らす人々と、アフリカ大陸の無数の言葉を話すすべての人々の上に、穏やかな日々がありますように。

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南アフリカが平和でありますように

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参考・引用元

  • MIT Technology Review「This company is building AI for African languages」(アブドゥッラーヒ・ツァンニ、2023年11月17日):technologyreview.com
  • TechCabal「How Google wants to teach AI Africa's 2,000 languages」(フランク・エレアニャ、2026年2月12日):techcabal.com
  • arXiv「Bridging the Gap: Enhancing LLM Performance for Low-Resource African Languages」(2024年12月):arxiv.org
  • arXiv「The State of Large Language Models for African Languages: Progress and Challenges」(2025年6月):arxiv.org
  • Science(AAAS)「AI often mangles African languages. Local scientists and volunteers are taking it back to school」:science.org
  • Slator「New Initiative Supports Language AI Projects in Africa」(2026年5月):slator.com
  • Masakhane 公式サイト:masakhane.io

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