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ニジェールの再緑化 ― 地面の下に森があった、と農民が気づくまで

2026年8月19日

1980年代のニジェール南部。干ばつが続き、飢饉が人々を襲っていた。畑は砂に埋もれ、木はほとんど残っていない。援助機関が苗木を植えても、たいてい枯れた。

そのころ、農民たちはあることに気づいていた。出稼ぎに出ている家の畑のほうが、よく実る。

手を抜いた畑が、なぜ実るのか

理由は、はじめ誰にも分からなかった。

出稼ぎに行く人は、畑を掃除している時間がない。地面から出てくる細い芽を、いちいち刈り取らずに残していた。ふつうなら雑草として抜くものである。ところが、その芽を残した畑のほうが、丁寧に整えた畑よりも作物が育っていた。

その芽が何だったのか。1960年代から70年代にかけて伐り払われた、古い森の名残だった。

地上は裸地に見えても、土の下では切り株と根が生きていた。人が何もしなくても、条件が許せば芽を出す力を、それは持ち続けていた。この地域には「地下の森」という言い方が残っている。

1983年、マラディ州で農業開発の仕事をしていたオーストラリア人の農学者トニー・リナウド氏も、同じものを見ている。土の道でパンクを直していたとき、そばの切り株から小さな緑の葉が伸びているのに気づいた。植えた苗は次々に枯れるのに、この芽は誰の手も借りずに育っている。

のちに同氏はこう振り返っている。すっかり気落ちして、もう諦めて故郷へ帰ろうと思っていたときに、答えは文字どおり足元にあったのだ、と。ニジェールには、サヘルには、そういう茂みが何億とあった。

選んで、残して、守る

やり方は、拍子抜けするほど単純である。

切り株から何本も出てくる芽のうち、勢いのよいものを3〜5本選んで残す。ほかは剪定する。あとは家畜に食べられないよう守ってやる。それだけで、3年から5年で一人前の木になる。

苗床も、輸送も、水やりも要らない。費用はほぼゼロである。しかも、その土地に元から生えていた在来種だから、気候にも土にも合っている。

残される木は一種類ではない。ニジェールでよく見られるのは、ファイデルビア・アルビダ(現地名ガオ)、コンブレツム・グルティノスム、ギエラ・セネガレンシス、ピリオスティグマ・レティクラツム、バウヒニア・ルフェスケンス。ほかにバオバブや、実を採るバラニテス・アエギプティアカも守られる。20〜30メートルになる高木から、3メートルほどの低木まで様々である。

どの木を、どれくらいの密度で残すかは、農民が自分で決める。残した幹は、必要に応じて薪や材木として伐ることもできる。

畑で穫るのは主にトウジンビエ(ミレット)とソルガム、一部でトウモロコシ。作付面積は農家あたりミレットが2ヘクタールほど、ソルガムが2ヘクタール弱という小規模な畑である。

農民が最初に挙げるのは、風のこと

なぜ木があると作物が育つのか。聞き取りに答えた農民が最初に挙げるのは、窒素でも肥料でもない。である。

木があると風の速さが落ち、土から水が飛びにくくなる。そして、こういう証言がある——1980年代には、飛んできた砂に埋もれるせいで、作物を3度も4度もまき直さなければならなかった。いまは一度まけば済む。

種も、労力も、水も、それだけ節約できる。乾燥地では、収量を語る以前の、生き死にに近い話である。

そのうえで、落ちた葉が土に還る。マメ科の木は窒素を固定して土を肥やす。ただし農民は、まだ若い木ではその効果を感じないとも言う。効きはじめるまでに年数がかかるのだ。

ファイデルビア・アルビダが好まれるのには、変わった理由がある。この木は乾季に葉をつけ、雨季に落葉する。ほかの木と逆なのだ。作物が育つ雨季には葉がないので日光を奪わず、落ちた葉はそのまま肥やしになる。乾季には葉が茂って家畜の飼料になり、さやも餌になる。作物と競合しない時間割を、この木は持っている。

35年で2億本

この単純な判断が、一人ひとりの畑で、何十年も繰り返された。

結果は、衛星写真に映るほどの規模になった。米国地質調査所の分析によれば、2017年時点で約700万ヘクタールがこの手法の影響下にある。マラディ、ジンデル、タウアの各州で、少なくとも500万ヘクタール。加わった木はおよそ2億本と推計されている。

1970年代には1ヘクタールあたり2〜3本しかなかった木が、いまは20本、40本、60本以上ある畑が珍しくない。

そして、これは植林の成果ではない。研究者の記述が明快である——この規模の再緑化は、木を植えることによるものではない。1980年代半ば以降、農民が自分の農地で自然に再生してくる木と低木を守り、管理してきた結果である。

サヘルの半乾燥・亜湿潤地帯では、いま農地の16%を樹木が覆っている。西アフリカのサバンナでは23%。その樹木被覆のほぼ100%が、この手法によるものだという。

暮らしも変わった。ニジェールの農民は1970〜80年代より年間50万トン以上多い穀物を得ており、250万人の食料事情が改善した。マラディ州では総収入が1,700万〜2,100万ドル、世帯あたり年およそ1,000ドル増えたとされる。ダン・サガ村のアリ・ミコ氏は、売る薪が増え、女性が薪を集めに費やす時間が減り、家畜の飼料が増え、収入が上がって、いまではほとんどの家が荷車を持つようになったと語ったと伝えられている。

木は、長いあいだ農民のものではなかった

ここに、この話のいちばん重い部分がある。

ニジェールでは長く、樹木は国のものだった。植民地期以来の法制のもとで、農民は自分の畑に生えている木でも自由にできない。伐れば罰せられる。守っても自分の利益にならない。

樹木の保有権は、公式の法と慣習法とイスラム法と植民地期の規則が幾重にも重なり、人によって解釈が違った。その結果どうなったか。研究機関の記述は身も蓋もない——樹木の再生は、奨励されるどころか、しばしば抑制されていた。

1993年、農村法典が制定される。1986年に始まった長い協議を経て、複雑に重なり合った権利関係を整理し、慣習的な仕組みを正式な法に統合しようとしたものだった。この法典によって、樹木の所有権が国から農民へ移った

ただし、順序を間違えないでおきたい。法が変わる前から、農民はすでに始めていた。米国地質調査所の記述はこの点をはっきり書いている。政策が施行される以前から、南中部ニジェールの人口の多い農業平野で、農民たちは樹林地の再生を始めていた、と。

そして驚くべきことに、500万ヘクタールを再生させた実績がありながら、2020年まで、この手法を奨励する法律も政策も存在しなかった

2020年の政令が、ようやくそれを変えた。自分の畑で植えた木、維持してきた木について、排他的な権利を生産者に明確に与えるという内容である。単純に見えるこの一歩にも、幾層にも絡んだ利害があるために、広範な協議が必要だったとされる。

気づいたのは農民だった。始めたのも農民だった。制度は、35年遅れて追いついてきた。

どこでも効くわけではない

成果を大きく見積もらないでおきたい。この手法は万能ではない。

ガーナとブルキナファソの316区画を調べた査読論文が、条件を明らかにしている。再生を妨げるのは、放牧と農業の強度、そして種子を運んでくる親木が近くにないことだった。興味深いのは、土地の劣化そのものは再生を妨げていなかったという点である。荒れているから駄目なのではない。使い方が強すぎると駄目で、種の供給源がなければ駄目なのだ。

収量への効果も、研究によって1ヘクタールあたり31キログラムから350キログラムまで幅がある。10倍以上の開きである。西アフリカ4か国の63本の報告を集めて分析した研究では、保全的な農法6種のうち「樹林地の木」だけが、平均としてはっきりした増収を示さなかった。緑肥やマルチングのほうが効果が大きかった。木があれば収穫が増える、と単純には言えないのである。

樹種によっても違う。ある圃場試験では、土壌の栄養分をいちばん改善したのはファイデルビア・アルビダだったが、ミレットの収量がいちばん高かったのは別の樹種、ピリオスティグマ・レティクラツムの下だった。土を肥やす木と、作物がよく育つ木が、必ずしも同じではない。

そして、研究自身が正直にこう書き添えている——それでも穀物の収量は依然として低く、急速に増える人口を養うには足りない。ニジェールの人口は1950年の約200万人から1,700万人を超えた。国土の4分の3は砂漠である。

一種類に寄せた場所で、起きていること

ここに、考えさせられる事実がある。

農民が自分で選んで残してきた畑では、木は多様だった。ある調査では、優占していたのはコンブレツム、ピリオスティグマ、ギエラの3種で、ファイデルビア・アルビダではない。土地ごとに、農民ごとに、残す木は違っていた。

一方、中南西部ニジェールでは事情が異なる。1981年から林業事業がファイデルビア・アルビダを推奨し、1ヘクタールあたり35本から50本へ密度を上げることを目標に掲げた。成果は上がり、この地域の樹林地はこの一種に支配されるようになった。木の下で育てたミレットの収量が、木のない区画の1.78倍という報告もある。

ところが近年、そのファイデルビア・アルビダに原因不明の立ち枯れが広がっている。多くの場合、木は枯死する。人による伐採や過剰利用が原因ではないとされ、何が起きているのかは分かっていない。地域の人々は、作物への影響を感じ取っている。

農民がそれぞれの判断で残したときは、多様だった。外から「この木がよい」と推されたところで、一種類に寄った。そして、いまその一種類が枯れている。

ニジェール政府も、樹林地の樹種の偏りと木の高齢化、そして非合理な利用の増加を懸念してきた。女性の土地に対する権利が限られていることが、投資と採用の制約になりうるとの指摘もある。

木が土地の権利の目印になるという性質も、両刃である。木を持つことが土地を持つことの証しになれば、それは新しい争いの種にもなりうる。

国境を越えていくもの

それでも、この方法は広がり続けている。

オランダの団体が2018年から支援する事業では、ニジェール、ブルキナファソ、セネガルの6万5千人を超える農民が実践している。マリでは、地元団体の代表が「費用が少なく、必要な資源も少なく、しかも非常に速く広げられる」と説明する。

制度も動きはじめた。ニジェールの2020年の政令に続いて、セネガルが2024年、農牧林業基本法を改正し、この手法を正式に位置づけた

そして、国連の記録にひとつ印象的な記述がある。エチオピア、ケニア、ルワンダ、ウガンダ、マリ、ガーナなど各地で広がりが見られるなか、マラウイでの広がりは、外部の支援をまったく伴わない、完全に在来の運動として起きている、と。

誰かが持ち込んだのではない。見て、試して、うまくいったから隣に伝えた。それだけで国境を越えている。

祈りによせて

失われたと思っていたものが、実はまだそこにあった。地上を見れば裸の土でも、その下では根が生きていて、機会をうかがっていた。必要だったのは新しく何かを持ち込むことではなく、すでにあるものを見つけて、邪魔をしないでいることでした。

それに最初に気づいたのは、専門家でも援助機関でもなく、隣の畑を見ていた人たちでした。出稼ぎで手の回らなかった畑がなぜかよく実る——その小さな違和感を見逃さなかった目が、35年後に2億本の木になっています。誰かが号令をかけたのでもなく、一人ひとりが自分の畑で「この芽は残そう」と決めた、その判断が積み重なっただけです。

収量はまだ足りず、人口は増え続け、この方法が効かない場所もあります。よかれと思って一種類に寄せた場所では、その一種類が枯れはじめてもいます。畑ごとに違う木が立っているというあの雑然とした様子は、たぶん非効率ではなく、備えだったのでしょう。それでもサヘルの畑には、確かに木が立っています。ニジェールで土を耕す人々の上に、穏やかな雨と実りが訪れますように。そして、まだ気づかれていない「地下の森」が、世界のあちこちで見つかりますように。

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Niger

ニジェールが平和でありますように

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参考・引用元

  • USGS(米国地質調査所)Smale, Tappan, Reij「Farmer-managed restoration of agroforestry parklands in Niger」(2018年):pubs.usgs.gov
  • Scientific Reports「Drivers of farmer-managed natural regeneration in the Sahel. Lessons for restoration」(2020年):nature.com
  • Regreening Africa「Niger formally adopts farmer-managed natural regeneration」(2021年1月):regreeningafrica.org
  • CIFOR-ICRAF Forests News「From the ground up: Farmer-managed natural regeneration revives degraded lands in Africa」(2026年2月24日):forestsnews.org
  • World Agroforestry「Niger's re-greening revolution」:worldagroforestry.org
  • 国連経済社会局(UN DESA)「Farmer Managed Natural Regeneration (FMNR)」:sdgs.un.org
  • Both ENDS「Regreening the Sahel through FMNR」:annualreport.bothends.org
  • National Geographic「How farmers in Earth's least developed country grew 200 million trees」(2022年):nationalgeographic.com
  • Tougiani ほか「Faidherbia albida (Delile) Tree Dieback Effects on Crop Production in the Parkland Agroforests of Southwestern Niger」International Journal of Forestry Research (2021年):hindawi.com
  • ICRISAT/Agroforestry Systems「Combined effect of trees and soil fertility management on crop yield」(2021年):oar.icrisat.org
  • Agroforestry Systems「Influence of farmer-managed natural regeneration (FMNR) on the woody species diversity and structure in agroforestry parklands of South-central Niger」(2026年):link.springer.com

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