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配当の出ない株券 ― 高知・四万川、住民174人がつくった会社の15年

ガソリンスタンドが一軒なくなる。都市で暮らしていれば、隣の店に行けばいいだけの話だ。けれど高知県梼原町の四万川地区では、それは冬に灯油が届かなくなることを意味した。四国山地の北の端、当時499人が暮らしていた集落である。

「もともとあった民間のガソリンスタンドがね、数年前に廃業することになったんですよ。ガソリンスタンドがなくなったら困るでしょう、そら自分たちでやらにゃいかんと」

柔らかい物言いにはっきりした意思をにじませて、空岡則明さんはそう語ったと、取材したライターの甲斐かおり氏は書いている。

174人の株主と、配当の出ない株券

きっかけは2011年の法改正だった。地下貯蔵タンクからの流出事故を防ぐため消防省令が改正され、古いタンクには2,000万円ほどの改修費用が必要になった。加えて経営者も高齢だった。誰かを責める話ではない。法改正は事故を防ぐためのものだし、店主が年を取るのも当たり前のことだ。それでも、冬に雪の降るこの地域で燃料が買えなくなれば、暮らしは立ち行かなくなる。

住民たちは「できる事から進める」を合い言葉に、高知県の集落活動センター推進事業を導入した。地域の暮らしを支える拠点として「集落活動センター四万川」を立ち上げ、その運営母体として株式会社四万川を設立する。

ガソリンスタンド継続のための推進委員会が立ち上がり、半年ほどかけて計画を練った。地下貯蔵タンクを改修する案も検討されたが、場所を移して新しいガソリンスタンドを建てる案に落ち着く。残る問題は、それを誰が運営するかだった。

答えが、株式会社四万川である。資本金800万円のうち、四万川区が500万円を出資し、残る300万円を住民が1株1万円で引き受けた。最終的に174人が出資している。地区が筆頭株主で、あとは住民が株主という会社だ。空岡さんは会社の代表であり、集落活動センター四万川推進委員会の会長であり、地区の区長も兼ねる。

「当時、ガソリンスタンドと言えば閉店に次ぐ閉店。新しくガソリンスタンドができるなんて考えられないと言われ、メディアの取材も多く、全国から注目された」と空岡さんは振り返る。ガソリンの供給元である石油会社をはじめ、航空会社や農林水産省など、多方面からの視察が相次いだという。

なぜ株券という形にしたのか。空岡さんの説明はこうだ。

「そりゃあ、1リットルでも外で入れればよそへお金が出ていくわけやから、ここ(地区内)で入れようってなるわね。みんなに自分たちの会社って意識を持ってもらうために、あえて株券を発行したんです。特に配当金が出るわけではないんだけども」

配当は出ない。それでも株券を刷った。資金を集める道具としてではなく、当事者だという感覚を作る道具として使ったということである。1万円は、この地域では小さくない額だ。その1万円が、給油のたびに「自分の店で入れよう」という判断に変わる。

効果はあった。民間のガソリンスタンド時代に比べて、地域法人になってから給油だけでも売上が3倍になったという。ここは注意して読みたい。3倍になったのは売上であって、燃料の仕入れ値や人件費を引いた後の利益ではない。

「葬儀をする場所がほしい」

新しいガソリンスタンドをつくるにあたって、出資者をはじめ住民の意見を聞いた。出てきたのは、こんな声である。コンビニ的な要素があると便利。ホームセンターのような商品があるといい。そして、葬儀をする場所がほしい。

一度にすべてを実現することはできない。ホームセンターのような品ぞろえは徐々に進めた。たばこを置き、県内の観光施設で特典が得られる「龍馬パスポート」も扱うようにした。2016年には飲食店の営業許可を取り、廃校の調理室を借りて保健所の許可を取り、弁当をつくって販売と配食を始めた。

葬儀場は、それから3年後に実現した。県の経営拡充支援事業から1,000万円の補助金が出ることを知り、厳しい審査を経てそれを得て、2019年に近隣の旧幼稚園を多目的ホールに改修した。いまは年間10件ほどの葬儀を執り行っている。

「高齢化が進んだ中山間地域。地元の皆さんがお見送りに来てくれる。私たちが葬儀をする価値だと思っている」と空岡さんは語る。

会社が何をやるかは、住民が言ったことの順番で決まっていった。この地区の人たちが暮らしに必要だと思ったものの一覧が、そのまま事業の一覧になっている。

7,500万円と、「自走」という約束

公的な資金は、決して小さくない。

ガソリンスタンドを新設するのに、7,500万円近くの初期投資がかかっている。3,000万円を集落活動センターの費用として県が助成し、3,000万円を町が出し、残りを地区の積立金と住民の出資でまかなった。梼原町は県の助成とは別に、年200万円の運営費を各センターに出している。

ただし、それは永続的な支えではない。集落活動センターの大きな目的の一つに「自走をめざす」という点がある。はじめの3〜4年は県や市町村から初期費用や運営費が助成されるが、その後は自活しなければならない。

助成には期限がある。暮らしには期限がない。この差を埋める作業が、会社の日常になった。

「投資してもらったからには売上を出して、地域に還元できてナンボ。そのために給油事業や物販だけじゃなく、色々やっています。せっかく地域法人ができたんやから、町の委託事業もよその業者に頼むんじゃなく、できるだけ地区内でやろうって、役場にも営業して。配食サービスを月に2回、年寄りの見守りも兼ねてやったり」

その配食サービスの話が、この会社の経営の実際をよく表している。

「経営努力もします。たとえば配食でいうと、地元の年寄りからの注文だけではせいぜい20食程度。それでは利益が出んので、地元の企業やら社協に声かけて、60食分くらいの注文を取ってね。そしたらわずかやけどスタッフの時給も払えるわけです」

20食では時給が払えない。だから60食にする。そのために自分たちで営業に回る。福祉事業として語られるものの内実は、こうした細かい算段の積み重ねである。

雇っているのは、地区の若手従業員が一人にアルバイトが一人。ほかに町の集落支援員制度で助成を受けて働く人が一人。空岡さん自身は地元の建設会社の役員でもあり、朝晩この店に立ち、日中は本業の会社へ勤めに出る。社長が兼業で店番をすることで回っている会社だ、ということでもある。

儲けと、幸福度のあいだ

梼原町は町内の全6地区に集落活動センターを設置した。他の地区を見ると、この仕組みが抱える難しさがもっとはっきり見えてくる。

初瀬地区では、有志の女性グループが行っていた鷹取キムチの加工生産を、センターの設立を機に大きく広げた。高知の民間スーパーと提携し、物販や町外での売上を合わせると2017年度で約1,126万円、2018年度は1,500万円と伸びた。ただしこれも売上である。

内側の事情は違った。キムチを作っているのは地元の女性数名で、年齢は66歳から84歳。取り組みが始まってすぐは月に1,000ものキムチを手で生産しなければならず、身体的な負担も大きかった。しかも味にこだわり売値も上げたくないという女性たちの思いから、原価率がきわめて高い。営利企業なら原価を下げるか売値を上げるかするところだが、利益に走りすぎれば「何のためにやっているのか」わからなくなる。働き手の幸福度を損ねずに儲けも出す。取材者は、この葛藤が地域法人の舵取りの難しさになるのではないかと書いている。

越知面地区では、高知新聞の販売店が廃止を決めた際、センターが委託販売先となり、住民自らが配達している。この事業についてセンターの取り分はゼロで、働いた人に利益の100パーセントが還元される。組織が利益を取らないと最初から決めた事業が、そこにある。同じ地区の女性グループ「チームシルク」は、ピザや菓子を作って町内へ売りに出るが、毎回時給が出せるかどうかぎりぎりで、材料費を確保した上で残った額を山分けするようなやり方で続けてきた。代表の瀬戸口登貴恵さんの言葉が、この地域の経済をよく言い当てている。

「売上のためと思ったらやれないです。でも、みんなでワイワイやることが楽しいから続けられる。続けることが目的です」

「これからは厳しくなる」

2019年当時、四万川は設立5年目にして、そろそろ自走できる域に達しているとされていた。空岡さん自身も、こう話している。

「ここ(四万川)だって売上的には厳しい時もあったんよ。今はだいぶ落ち着いて、何とかこのままいけば利益も少しずつ増やしていけると思いますけどね」

ところが、それから数年後の取材で、同じ人の見通しは変わっていた。

会社の事業はさらに増えていた。介護予防事業、生きがいデイサービス、草刈りといった町の委託事業も担うようになり、日経BPの記事はこれを地域の「スーパーよろず屋」のようだと表現した。売上も順調に伸びてきた。

それでも、である。「これからは厳しくなる。そう考えて、21年にキジの生産事業を継承した」。新事業への挑戦について、空岡さんはこともなげにそう話したという。

選ばれたのは、また別の消えかけていた仕事だった。梼原町では1985年に町の雉生産組合が発足し、ピーク時には4,000羽を飼育して3,000万円ほどの売上があった。それが高齢化で生産者が減り、ついに最後の一人になって、飼育数は1,000羽ほどに落ちていた。四万川の活動が8年目を迎えた頃である。

2021年10月、株式会社四万川はこの事業を引き継いだ。新規生産者や住民の協力を得ながら、県と町の補助金を使って新しい鶏舎と加工施設を建てた。ガソリンスタンドのときと構図は同じである。制度や高齢化で誰かが手を離す。放っておけば地域から消える。それを住民の会社が拾う。

ただしキジは、簡単に儲かる商品ではない。育てるのに7か月かかり、卵は1年に一度しか産まない。孵化させるのも、ほかの鳥に比べて歩留まりが悪い。四万川では四万十川の源流域で1平方メートルあたり3〜5羽の密度で放し飼いにし、餌には山野草や畑の野菜を、水には山の湧水を与えている。手間をかけなければ成立しない商品を選んだということでもある。専門家を招いて講習を受けたこともあるという。

そして、いまも数は足りていない。空岡さんはこう話す。「需要に追いつくための目標は5000羽。しかし今のペースでは5年後に3500羽の計算」。日経BPの記者は、そう語る空岡さんを残念そうだと書いている。

2026年現在も、孵化から発送まで町内での一貫生産が続いている。ただし通販サイトには長く欠品していた商品が入荷したという告知が出ており、需要に生産が追いついていない状況は変わっていないようだ。引き継いだ事業は、まだ軌道に乗る途中にある。

誰に、任せるかを決める

この地域の判断で、もう一つ印象的なものがある。人手の借り方だ。

こうした地域づくりで担い手がほしい場合、総務省の「地域おこし協力隊」が充てられることが多い。四万川も当初は県の応援隊制度で外から来る人に手伝ってもらっていた。しかし空岡さんは、こう考えた。

「時々来るくらいでは本格的な戦力にはならんわね。地域に慣れとる人でもないしね。しっかりお金のことも任せられる人が欲しいから、地元の若い子らを支援してもらう方がええんじゃないかと。そう僕らから提案して、集落支援員の制度を利用することになったんです」

集落支援員は、地域の実情に詳しい人材が自治体から委嘱を受けて集落対策にあたる制度で、総務省から自治体へ財源手当がある。役場が一般募集をかけるのではなく、地区の側が推薦した人材に役場が委嘱する形をとり、3年間、月々18万円強の支援が行われる。

用意された制度をそのまま受け取るのではなく、自分たちに合う制度を選び直して、そう提案した。誰に来てもらうかを、地域が決めている。

空岡さんは、その仕事の性質についてこうも話している。「やっぱりそう簡単なことじゃないですからね。普通の民間と違って、儲かることをやるわけじゃなし、それでも地域に必要なことを、地域の存続のためにやるわけやから。そうした思いが根底に必要よね」

工場を、入れないという判断

なぜ、儲けを追わないのか。町をあげてこの仕組みを進めてきた前町長・矢野富夫氏は、その考え方を「シビック・エコノミー」という言葉で説明する。

「自分たちでできることは自分たちでする。地域住民による地域住民のための循環型の小さな経済をつくる。それを実現する未来を切り開くための小さな社会変革が『シビックエコノミー』だ」

その考えは、儲けの上限についての判断にまで及ぶ。

「私はね、こうした地域活動の目的は、最終的には売上とは思っていないんです。発展をめざす会社経営にするつもりはなくて、あくまで地域の人たちが長く楽しく生きていけるしくみをつくりたいということ。地域を維持するためのサービスやお金は必要やけど、それ以上は儲けなくてもいいんじゃないかと」

そして、こう続ける。

「どんどん稼いで地域を発展させて…ということではないんです。それなら大きな企業や工場をつくるやろうけど、工場入れてここに何十人分もの雇用が生まれても、工場が駄目になったり、急に株価が下がったりという外部要因で一気に人がおらんようになったら梼原はたちまち潰れてしまう。大きくは儲からんけど、いま住んでいる人たちが楽しみながらまわしていける循環型の地域社会をつくろうとしているわけです」

雇用の数だけを見れば、工場を誘致するほうが早い。それでも選ばなかったのは、その決定権が町の外にあるからだ。株価が下がれば人が消える。自分たちで決められないものの上に暮らしを載せない、という判断である。

実際に起きているのは、もっと小さな規模の話だ。自分たちで作る野菜や加工品を他の人にも食べてもらうことで、結果的に月2万円、多い人で月7万円を稼ぐ人が出てきた。それで介護保険料を賄えたり、生活の楽しみになったりする。

残る難題

この仕組みには、まだ解けていない問題がいくつもある。

最大のものは担い手だ。町役場の担当者は、取り組みを広げていくには事業を率先して担う人が足りないと語っている。取材で見えてきたところによれば、こうした活動を率いているのはほとんどが定年退職後の60代。若い現役世代がこれほどの地域活動に携わるのは難しい。

高知県全体で見ても、集落活動センターは2025年3月31日現在で32市町村・68か所。県は令和6年度末までに80か所という目標を掲げていたが、届いていない。県の集落調査は、多くの集落に共通して担い手不足が大きなボトルネックになっていると結論づけている。同じ調査では、それでも多くの住民が地域に愛着を持ち、住み慣れた場所で暮らし続けたいと希望していることも確認されている。住み続けたい人はいる。担い手が足りない。二つが同時に存在している。

もう一つ、正直に置いておきたい論点がある。町役場の担当者は「いま集活で行われていることをすべて行政が行ったとしたら、もっと人もお金もかかります。地域の人たちの努力で、何とかまわしてくれている」と話している。矢野氏も、越知面のチームシルクがお年寄りの健康状態を確認したり要望を聞いたりする活動について、こうした活動は公共の役割を担っており行政にとっては大きな支えになっていると評価する。

事実その通りなのだろう。ただし同じことは、住民の無償に近い労働が行政の支出を肩代わりしている、とも言い換えられる。地域の主体性と、行政サービスの縮小は、外から見ると同じ形をしていることがある。この町の場合、副町長の西村新一氏が語る行政側の姿勢がその境目を示しているのかもしれない。地域に通い続けて信頼関係を築き、地域の人たちに自主性が生まれて「よしやろう」となったとき、行政がいかにお金を取ってきて一緒にやれるか、そのスピード感を重視したという。決めるのは住民、支えるのは行政、という順序である。

四万川地区の人口は、2019年頃の499人から、2024年の取材時には460人ほどになっていた。

祈りによせて

採算だけで測れば、この地区にガソリンスタンドは要らない。年10件の葬儀場も、210日かけて育てるキジも、20食を60食にするための営業も、効率のいい商売ではない。

けれど暮らしというのは、採算の合わないものの積み重ねでできている。冬に灯油が届くこと。人を送る場所があること。週に一度、みんなでピザを焼くこと。それらを「儲からないから」と手放していった先に、住み続けられる場所は残らない。

この会社が10年後も続いているかは、わからない。担い手はいずれまた年を取る。補助金の制度も変わるだろう。社長は「これからは厳しくなる」と言い、いまも朝晩、店に立っている。

それでも、ここには一つ、確かなものがある。何をやるか、何をやめるか、誰に手伝ってもらうか、どこまで稼ぐか。その全部を、そこに住んでいる人たちが決めている。配当の出ない株券は、その形をした紙なのだと思う。

世界のどこであれ、暮らしが薄くなっていく場所がある。そこで誰かが「自分たちでやらにゃいかん」と言い出すとき、その声が孤立せずにすみますように。決める力が、住んでいる人の手に残りますように。

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参考・引用元

  • Yahoo!ニュース エキスパート 甲斐かおり「『ガソリンスタンドも自分たちで』住民=株主という会社を立ち上げた過疎集落の挑戦」:news.yahoo.co.jp
  • 日経BP 新・公民連携最前線「住民主体で生き残りを目指す『小さな拠点』づくり、高知県梼原町」:project.nikkeibp.co.jp
  • 株式会社四万川 雉生産部「会社概要」:ryoma-kiji.com
  • 高知県「集落活動センターの取り組み」(令和7年3月31日現在):pref.kochi.lg.jp
  • 高知県「集落活動センターハンドブック」(令和3年3月):pref.kochi.lg.jp
  • 高知県「集落活動センターの推進の方向性について」:pref.kochi.lg.jp
  • 国土交通省 資料「令和3年度高知県集落調査」:mlit.go.jp
  • ゆすはら雲の上観光協会「キジ肉」:yusuhara-kumonoue-kanko.jp
  • 日本経済新聞「地域課題を住民同士で解決 全国8587組織」(2026年7月):nikkei.com

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