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座標が、舟を出す — トンレサップ湖、衛星と漁師が守る氾濫林

携帯電話が鳴る。地図の座標が一つ、メッセージアプリに届く。受け取ったのは、カンボジア・トンレサップ湖のほとりに暮らす漁師たちだ。座標が示すのは、火が出ているかもしれない場所。彼らは舟を出し、金属製の熊手を持って、その場所へ向かう。

マングローブの森と生活している人々
Image by Sharon Ang from Pixabay

乾季になると、森が火口になる

トンレサップは東南アジア最大の淡水湖である。100万人を超える人々がその周りで暮らし、生計と住まいと栄養をこの湖に頼っている。

湖を取り巻いているのは「氾濫林」と呼ばれる淡水のマングローブ林だ。雨季には水に沈み、およそ1月から6月の乾季になると水が引いて、根が泥から突き出す。そして森は、燃えやすい火口のようになる。

この森が痩せてきている。米ネバダ大学が率いる調査プロジェクトの研究によれば、トンレサップのような氾濫原の森は、1993年から2017年までの間に3分の1近くが失われた。主な要因は二つ。農地への転換と、森林火災である。

森と魚は切り離せない。この水域は約300種の魚の産卵と採餌の場であり、台風のときには漁師が森の奥へ舟を入れて風雨をしのぐ。スナドリネコやスマトラカワウソといった絶滅の危機にある動物のすみかでもある。

漁師のルオン・チャンレンさんは言う。「森が健康なら、魚は繁殖して育つ。でも森が燃えれば魚は消える。それは私たちの地域全体の生計に響く」。そして、こう続けた。「森のない暮らしは想像できない」

火をつけているのは、隣人である

ここで、この話をわかりやすい善悪の物語にしないための説明が要る。

火の原因は、投げ捨てられたタバコや、放置された焚き火だ。それに加えて、水牛の餌を求める農民が、雨季の前に土地を焼いて新しい草の芽を出させることがある。コンサベーション・インターナショナル・カンボジアでトンレサップ事業を担当するソクリット・ヘンさんは、こう説明する。「彼らが森を破壊したいわけではないことは理解している。ただ、火を制御できないのだ」

暮らしのための火が、暮らしの土台を焼く。カンボジアの漁業法では、氾濫林を破壊した者は最長5年の禁錮刑に処されうる。同じ湖で生きる人々が、互いを見張らざるをえない構図でもある。

火は陸だけの問題ではない。ヘンさんによれば、ひどく焼けた場所には大量の灰が残り、それが水に流れ込んで水質を変え、魚が生きられなくなることがある。

さらに厄介なのが、焼け跡に真っ先に入り込む外来植物だ。南米原産のミモザ・ピグラは在来植物より成長が速く、焼けた土地を占拠してしまう。そして寿命が短く、枯れると火口になる。燃えた場所が、次に燃えやすくなる。

枝で叩いていた頃

森を失いつつあると気づいた住民は、まず苗床を開いた。在来の木から集めた種で苗を育て、湖の周囲に作った林に、これまでに27万本近い苗を植えている。

その種類が興味深い。sdey、roteang、ta ou、sandan、krabao。氾濫原の絶滅危惧種を含む在来樹である。ヘンさんはその理由をこう語る。これらは大きく高く育って多くの水鳥や哺乳類に不可欠な生息環境を提供する。いくつかは蜜や花粉の重要な供給源でミツバチなどの花粉媒介者を支える。成熟した林は雨季の強風や嵐から守ってもくれる。

このプロジェクトに関与していないカンボジア在住の再生経済学者ブルーノ・ビアンキーニ氏は、新しい木と成熟した木を混ぜることが鍵だと指摘する。生態的な遷移の異なる段階、つまり回復と成熟のさまざまな局面が同じ景観に共存すべきであり、それが強靭さにとって決定的だという。

だが、苗を植えるうちに、はっきりしてきたことがあった。火事を止めなければ、この労力はすべて無駄になる。

当時の消火はこうだった。ヘンさんは振り返る。「きちんとした消火機材を手にする前、住民は木の枝で炎を叩いて消そうとしていた。適切な作業服も装備も、火災安全の知識もなく、消火はとても危険だった」

5,000ドルの元本と、その利子

そこで住民は、消火パトロール隊をつくった。その資金の出どころが、この取り組みのいちばん面白いところである。

資金を支えているのは、女性たちが率いる貯蓄グループだ。当初、コンサベーション・インターナショナルから5,000ドルの元手が渡された。グループはこの基金を取り崩さず、そこから生まれる利子で消火機材や、火災への注意を促す啓発資材を賄っている。

ここは正確に書いておきたい。種銭は外から来たものである。「自分たちのお金だけで守っている」わけではない。ただ、贈られた金を使い切るのではなく元本として残し、その果実で活動を回すという設計は、援助が終わった後も続きうる形をしている。誰から受け取ったかより、その後を誰が決めているかのほうが、たぶん重要だ。

技術の伝え方も似ている。オーストラリアの消防士ジョー・ティリー氏が、ボランティアで2つの漁業コミュニティに消火の技術を教えた。その後、さらに15のコミュニティが加わっている。ティリー氏の言葉が印象的だ。

「彼らは土地の人々だから、原則をとても早く理解した。火の挙動が風に左右されることや、火に最も安全に近づく方法を話すと、日々その条件の中で暮らしているから理解できる。ただ技術を見せればよかった」

外から来たのは、道具と手順である。火をどう読むかは、もともとそこにあった。

衛星から、Telegramへ

2022年1月、住民の消火チームは新しい段階に入った。衛星による火災検知技術を使い始めたのである。

仕組みはこうだ。衛星が火災の正確な位置を特定し、その座標を中央の番号に送る。そこからメッセージアプリのTelegramを通じて、各地域のパトロール隊へ転送される。宇宙から届いた情報が、日常の連絡アプリを経て、舟を持つ人の手元に落ちてくる。

ルオンさんは、その効果を体験した一人だ。「衛星が火災の可能性がある場所を示した。私たちは急行し、保護された氾濫林に燃え広がる前に止めることができた」

ルオンさんを含む78人が地域の消防団員として訓練を受けている。米国のNGOが記録している数字によれば、この3年間で50件の火災アラートに対応し、約64,000ヘクタールの氾濫林を守った。17のコミュニティ、地方当局、コミュニティ漁業組織が連携している。

そして森が戻り始めると、そこにいるはずのものが帰ってきた。

パトロール隊が氾濫林に仕掛けた赤外線カメラトラップに、スナドリネコが写った。この場所で確認されたのは10年ぶりである。プルサットの再生された森を、夜、歩いていた。IUCNレッドリストで危急種とされる中型の食肉類だ。

ヘンさんは、この取り組みの要点をこう述べている。「私たちは衛星アラートを使うが、実際に違いを生むのはコミュニティだ。タイムリーな情報を受け取り、対応する技能と装備を持っていれば、大規模な森林喪失になる前に小さな火を止められる。技術と地域による管理の組み合わせが、トンレサップの氾濫林を守るために不可欠だ」

決定権の、外にあるもの

ただし、湖そのものは、もっと大きな力に揺さぶられている。

トンレサップは、雨季にメコン川の水が逆流して流れ込むことで大きく膨らむ。この脈動が、世界有数といわれる内水面漁業を支えてきた。ところが査読論文の分析によれば、メコンから湖への年平均逆流量は、1962〜72年の487億立方メートルから、2010〜18年には317億立方メートルへと56.5パーセント減少した。雨季の水位は1.05メートル下がり、湖の面積は20.6パーセント縮んだ。

原因は一つではない。同じ論文は、上流の水力発電ダムだけでは観測された脈動の衰えを説明しきれず、灌漑のための取水や河床の掘り下げといった現地の人為的要因も重要な駆動因だと結論づけている。砂の採取による河床の浸食も指摘されている。

火は消せる。木は植えられる。けれど、水がいつどれだけ来るかは、湖畔の人々が決められることではない。

このプロジェクトに関与していない研究者ゼブ・ホーガン氏の言葉も、控えめである。氾濫林をそのまま無傷で保てるなら、それは再生よりも良い。しかし一度失ったなら、何かをするしかない。そのうえで、いくつかの魚の個体群が戻ってきているのは、再生の努力と違法漁業の取り締まりが部分的に効いた結果だと見ている。

乾季には気温が36度に達し、屋外での作業は難しくなる。苗床の苗も傷む。楽な仕事ではない。

祈りによせて

この話には、二つの円が描かれている。

外側の大きな円は、上流のダム、気候、砂の採取、国境をまたぐ水の配分。そこに湖畔の漁師の声はほとんど届かない。内側の小さな円は、火を消すこと、苗を育てること、貯蓄の利子で機材を買うこと。こちらは自分たちで決められる。

諦める理由なら、外側の円にいくらでもある。湖が縮んでいるのに、なぜ木を植えるのか。それでも彼らは、決定権が及ぶ内側の円で、できることを全部やっている。夜の森を歩く一匹のスナドリネコは、その積み重ねが確かに何かを変えたという、小さな、しかし具体的な証拠である。

衛星は世界のどこからでも火を見つけられる。けれど、その火のそばまで行けるのは、その土地に住んでいる人だけだ。遠くから届く情報と、近くにある判断。この二つが噛み合うとき、何かが守られる。

世界のどこであれ、自分たちの決められる範囲が小さくなっていく場所がある。その円が、少しずつでも広がっていきますように。

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参考・引用元

  • Mongabay「On Southeast Asia's largest lake, locals wield tech to defend the flooded forest」(2026年5月19日):news.mongabay.com
  • Chua et al.「Drastic decline of flood pulse in the Cambodian floodplains (Mekong River and Tonle Sap system)」Hydrology and Earth System Sciences 26 (2022):doi.org
  • Lohani et al.「Rapidly accelerating deforestation in Cambodia's Mekong River Basin」Water 12(8) (2020):doi.org

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