ウクライナ東部、ハルキウ州のドウヘンケ村。農家のイーホル・クニャゼフさん(45)は、金属探知機を手に自分の畑を歩いてきました。地雷を探すためです。毎年、明日には、明日にはすべての畑を除去すると約束されてきたのに、その明日が来なかったと、AFP通信の取材に語っています。クニャゼフさんはこうして10ヘクタールを自分で除去し、残る40ヘクタールも1年以内に終えるつもりだと話しました。
この記事は、新しい機械の話ではありません。公的な除去を待ちきれずに自分の手で畑を探ってきた人々と、その後ろから少しずつ追いついてきた仕組みの話です。そしてその仕組みを食い物にした人々の話でもあります。
国土の4分の1に、汚染のおそれ
国際NGOハンディキャップ・インターナショナルの資料(2026年4月)によれば、ウクライナでは約13万2,000平方キロ、国土のほぼ4分の1に、地雷や不発弾による汚染のおそれがあります。すでに約4万2,000平方キロが安全な利用に戻ったとされますが、いずれもウクライナ政府のデータ基盤の数字で、独立した検証はされていません。「おそれ」がある土地のすべてに地雷が埋まっているわけではなく、調査の結果、汚染なしと判断されて戻る土地も多いとみられます。
埋まっているものは一様ではありません。踏むと爆発する地雷、ドローンや砲弾で散布される小型の地雷、車両の重さで作動する対戦車地雷。手榴弾にワイヤーを張った罠は、道路や畑、森に二重三重に仕掛けられた例も報告されています。足音の振動を識別して地上1メートルほどに跳び上がってから爆発する、POM-3と呼ばれる新しい型の地雷もあります。人が歩いて近づくことを前提にした従来の手作業では、対処できない種類です。
2022年2月から2026年2月までに、地雷などで亡くなった民間人は483人、負傷した人は1,196人にのぼります(同資料)。実際の数はもっと多いとみられています。
待てなかった人々
クニャゼフさんの周りでは、何十人もの農家が対戦車地雷を踏み、対人地雷を踏んだ人も多いといいます。クニャゼフさん自身も、農具を引いていたトラクターで地雷を踏みました。本人は無事でしたが、農具は壊れました。それでも、みんなが自分で除去している、本当に全員がそうだと話しています。
ハルキウ近郊のコロブチネ村で農業会社に勤めるミコラ・ペレヴェルゼフさんは、遠隔で操作できるトラクターを自分で組み立て、2か月で約200ヘクタールを処理したと報じられています。トラクターは地雷で3度吹き飛ばされ、修理できなくなりました。いま、その土地は再び耕されています。ペレヴェルゼフさんは、兵士たちのあいだの言い回しとして、同じ場所を5回は無事に通れても6回目に吹き飛ぶ、と紹介しています。
同じ州のカミャンカ村では、ラリーサ・シセンコさんとヴィクトル・シセンコさんの夫婦が、熊手で地雷を探しました。軍には自分たちの面倒を見る時間がなかったと、ラリーサさんは語っています。その後、スイスの地雷除去財団が専門の機械で畑を除去し、54個の地雷が見つかりました。戦前に約1,200人が暮らしていた村に、戻ったのは約40人です。
この人たちの行動を、勇気ある工夫として称えることはできません。畑に出なければ暮らしが立たず、公的な除去はいつ来るかわからない。命を賭けるほかなかった、ということです。
仕組みが、少しずつ追いついてきた
公的な除去が遅かったのには理由があります。米国の戦略国際問題研究所(CSIS)によれば、2023年のはじめ、ウクライナには除去用の機械がなく、認証を受けた除去事業者は6つ、除去員は約1,500人しかいませんでした。慎重な作業には時間もかかります。スイスの財団のチームは2.6ヘクタールの区画に2年をかけ、見つかったのは爆発物の残骸3つでした。土の中の金属片が多すぎて、探知機が使えなかったのです。
2024年10月には機械が98台、認証事業者が58、除去員は約4,300人に増えました。認証事業者は2025年の1年で73から134へ、さらに倍近くになっています。除去の仕事は、ドローンで疑わしい場所を絞り、遠隔操作の機械で地面を砕いて地雷を作動させ、最後に人が探知機で確かめる、という段階を重ねて進みます。国産の除去ロボットも、その一つの段階を担うようになりました。ひとつの技術ですべてが片づくわけではありません。
農家にとって大きかったのは、2024年に始まった国の補償制度です。農家が国の農業登録簿を通じて申請すると、公開の入札で選ばれた事業者が除去を行い、費用を国が負担します。補償の割合は、当初の8割から、2024年9月に全額へと引き上げられました。対象は、前線や国境から20キロ以上離れた土地に限られます。2025年には、この制度で1万2,000ヘクタールを超える農地が使える状態に戻りました。
南部のヘルソン州では、2026年の春、農家のラヴィリ・ジャマッラさんが、前年に除去が進んだおかげで作付面積を倍にできたと話したと、ウクライナの公共放送が伝えています。2つの農場を営むヴィタリー・オレクシエンコさんも、除去と雑草の片付けで作付けを広げました。ただ、働き手が足りず、散布機もコンバインも自分で動かしているといいます。畑は戻りはじめましたが、人はまだ戻りきっていません。
安全な畑に、弾薬を埋めた人々
その一方で、仕組みを食い物にした人々もいました。ウクライナの国家捜査局と検察によれば、ヘルソン州では、2023〜24年にすでに除去が終わり、農家が耕していた約122ヘクタールの農地について、2025年5月に600万フリヴニャを超える除去の契約が結ばれました。除去員たちは土を掘り返して弾薬に似た物を埋め、検査の場でそれを「発見」してみせ、作業をしたという偽の書類を提出したとされています。
ミコライウ州でも同じ手口が疑われ、2つの州で計820ヘクタールを超える偽の除去が明らかになったと報じられています。2026年4月の時点で、事業会社の代表や除去班の班長など複数の人が容疑を告げられ、捜査が続いています。有罪は確定していません。
こうした不正が起きた背景について、国の人道地雷除去センターのヴォロディミル・バイダ所長は2026年4月、除去には約13の国の機関が関わり、事業者の作業の質を一貫して管理する仕組みがないことを挙げています。独立した品質管理の欠如が、一部の事業者をめぐる刑事事件につながったという認識です。センターは、品質を検査する専門家の認定を進めているとしています。汚染された畑を一日でも早く取り戻したい農家と、除去されたことにすれば支払われるお金。その間に、確かめる目がまだ十分に置かれていません。
祈りによせて
地雷は、戦闘が終わったあとも、そこで暮らす人を待ち続けます。ウクライナの農家たちは、仕組みが届くのを待てずに、金属探知機や熊手、自作のトラクターで自分の土地を取り戻そうとしてきました。いま、国の補償や除去の担い手が少しずつ整い、ヘルソンの畑には麦が蒔かれています。それは確かな前進です。
けれども、その前進のすぐ隣で、すでに安全な畑に偽の地雷を埋めた人々がいました。守る仕組みが、それを確かめる仕組みとともに育ってほしいと思います。同じ場所を何度でも、6回目も7回目も、誰も吹き飛ばされずに通れる畑が、一枚でも多く戻りますように。命を賭けて畑に立つ人が、もう出なくて済む日が来ますように。祈りを捧げます。
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ウクライナが平和でありますように
参考・引用元
- Kyiv Post(AFP配信)「'Everyone Demines by Themselves'」(2025年7月9日):kyivpost.com
- Bellingcat(AFPと共同)「Ukraine's Contaminated Land: Clearing Landmines With Rakes, Tractors and Drones」(2025年7月2日・独立調査報道):bellingcat.com
- Suspilne Kherson「Посівна-2026 на Херсонщині」(2026年4月1日・ウクライナ公共放送):suspilne.media
- Humanity & Inclusion「Landmine use in Ukraine」(2026年4月・国際NGOの資料):handicap-international.de
- ARES「Russian POM-3 anti-personnel landmines documented in Ukraine」(2022年・兵器調査機関):armamentresearch.com
- CSIS「Demining Ukraine's Farmland: Progress, Adaptation, and Needs」(2024年12月5日):csis.org
- ウクライナ人道地雷除去センター「The Government will compensate 100% of the cost of demining to farmers」(2024年9月2日・政府機関):demine.gov.ua
- Euromaidan Press「Over 120 km² of Ukrainian farmland cleared of mines in 2025 alone」(2025年12月30日):euromaidanpress.com
- Zaxid.net「Керівниця саперів та приватний підприємець розікрали 6 млн грн на розмінуванні Херсонщини」(2026年4月2日・現地メディア):zaxid.net
- Ekonomichna Pravda「Правоохоронці викрили фіктивне розмінування земель на десятки мільйонів гривень」(現地経済紙):epravda.com.ua
- LB.ua「Контролювати процес гуманітарного розмінування повинен один орган」(2026年4月2日):lb.ua
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