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市場で夜を明かす暮らしから、村で仕上げる暮らしへ — ソロモン諸島・60本のパイナップル果汁

収穫したパイナップルを売るために、市場で夜を明かす。それも、ときには女性や子どもまでもが。ソロモン諸島の山あいの村では、それが長いあいだ当たり前の光景だった。2026年6月、その村で小さな出来事があった。人々が自分たちの手で、初めてパイナップル果汁を瓶に詰めたのである。たった60本あまり。けれどそれは、市場まで身体を運ぶ暮らしから、村で完結する暮らしへと踏み出す、最初の一歩だった。

pineapple juice on white wooden backgroud

市場で夜を明かす

ゲゲデ村は、ソロモン諸島の主島ガダルカナルの東中央部、アオラ・ワードの山あいにある。甘いパイナップルの産地として知られ、首都ホニアラへ果実を供給する主要な村のひとつだ。だが、そこには昔からひとつの重い現実があった。村は遠く、道が悪い。収穫した果実を市場へ運ぶこと自体が、大きな挑戦なのである。

ようやくホニアラにたどり着いても、今度は売り切るまでが長い。組合員のひとりで、地元のパイナップル農家でもあるヘスリン・タリマナさんは、その苦労を淡々と語る。「パイナップルがまだ残っているときや、村へ帰る交通手段が見つからないとき、たいてい私たちは中央市場で寝るのです」。売るために遠くまで運び、売り切るために眠る場所さえ市場になる。運ぶ体力のない高齢者は、そもそもこの現金化の輪から外れてしまう。

こうした困難を前に、村の30戸の小規模農家は、ばらばらに立ち向かうのをやめて、手を組むことにした。「アトゥノダ・ファミリー農民組合」である。議長のギデオン・キルアさんは言う。「このかたちのアグリビジネスに踏み出すことで、私たちは力を合わせて村の暮らしを良くしようとしているのです」。

運ぶのではなく、村で仕上げる

組合が選んだ道は、素朴だが的を射ていた。果実をそのまま遠くへ運ぶのではなく、村で果汁に加工してから売る。そうすれば、あの過酷な移動そのものが要らなくなる。世界銀行が資金を出し、農業畜産省が実施する農業・農村変革(SIART)プロジェクトの支援を受けて、村には加工小屋と果汁の加工機が備えられた。2026年6月、食品安全の研修のさなかに、組合は初めての果汁の瓶詰めにこぎ着けた。試しに使った20個のパイナップルから、1時間足らずで60本以上ができあがった。

キルアさんは、その手応えをこう表現する。「加工施設からの最初の生産は、私たちにとって青信号です。村で果汁を作って利益を得られるのだ、という確信になりました」。研修には女性や子どもたちも熱心に加わり、できあがった一本を前に笑顔がこぼれたという。

数字の意味も見ておきたい。ホニアラでは生の果実20個で200ソロモンドルほどになるが、そこから交通費と市場の手数料が引かれていく。一方、同じ20個から果汁は60本余りできる計算で、1本5ソロモンドルで近隣の集落や学校に売れる。もちろん瓶や加工の手間といった費用はかかるので、そのまま利益が増えるとは言い切れないが、少なくとも売上のうえでは、村にとどまったまま以前を上回りうる。しかも組合は、村やまわりの集落の農家からパイナップルを買い取る。「農家はホニアラまで行かず、私たちのところへ持ってくればいい。私たちが買い取るので、農家は費用を節約できます」とキルアさん。市場まで行けない高齢者や、女性や子どもにとって、それは村の中に開かれた新しい現金化の道でもある。

ここにあるのは、ただ果汁を作ったという話ではない。生の果実を遠くまで運んで売る暮らしでは、価値の多くが道中の費用や仲介に消えていく。加工というひと工程を自分たちの手に握ることで、その価値を村の側にとどめようとしている。パイナップルは以前からこの村の主な収入源だった。キルアさんは言う。「パイナップルを売ることが、子どもの学費を払う助けになります。病人を病院へ連れて行くお金にもなるのです」。学費と、医療費。そのための現金が、村を離れずに、少しずつ手に入るようになりつつある。

まだ、始まったばかり

美しくまとめる前に、正直に書いておきたい。これは「成功した」物語ではなく、「始まった」物語である。

いまの売り先は、近隣の集落と学校が中心だ。ホニアラの商店との取引は、まだ「探している」段階にある。この事業は世界銀行の助成という土台の上に立っており、加工小屋も機械も仕入れの資金も、その支援によるものだ。自分たちの足で立つことと、外からの支えを受けることのあいだに、村はいる。持続できるかどうかは、これからの一手にかかっている。組合は、家族を支え続けるために2台目の加工機を買う計画を立てている。成果をめぐる語りの多くが事業側の発信に基づいていることも、書き添えておきたい。

それでも、タリマナさんの言葉には、長く待った人の実感がこもっている。「こうしたプロジェクトが私たちの村に届くことは、長いあいだの願いでした。村でお金を稼げるようになれば、家族や地域のために少し蓄えることもできます」。遠くまで運ぶのではなく、ここで仕上げる。その小さな選択が、暮らしの重心を村の側へ、少しだけ引き戻そうとしている。

祈りによせて

60本の果汁は、それだけ見ればささやかなものだ。けれどその一本一本には、市場で夜を明かさずに済む暮らし、運ぶ体力のない人も加われる仕組み、そして価値を村の側に残そうとする意思が詰まっている。何かを遠くの市場へ差し出すたびに、暮らしの重みも一緒に外へ流れ出ていく——そんな構造のなかで、ひと工程を自分たちの手に取り戻すことが、どれほどの意味を持つか。

ばらばらでは市場に運ぶことすら難しかった人々が、手を組むことで、村の中に小さな循環を作りはじめた。誰かひとりが豊かになるのではなく、市場へ行けない人にも道が開かれるように。その素朴な願いのかたちに、静かな希望がある。この村の小さな循環が、無理なく、末長く続いていきますように。そして同じように、自分たちの手に暮らしを取り戻そうとする人々の営みが、世界のあちこちで実を結んでいきますように。

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参考・引用元

  • In-depth Solomons「How Pineapple Juice is Changing Village Life」(2026年7月):indepthsolomons.com.sb
  • Tavuli News「SIART support boosts Guadalcanal pineapple farmers」(2026年7月):tavulinews.com.sb
  • Solomon Star「Community produces first pineapple juice」(2026年6月):solomonstarnews.com

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