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ニュージーランド首都にキーウィが帰った ― 鳥より先に、4年かけて罠を敷いた市民たち

2026年4月28日の夜、ニュージーランドの首都ウェリントンの西、霧のかかった丘の牧草地を、何人かの人が黙って歩いていました。手には7つの木箱。明かりは赤い懐中電灯だけ。

箱をふたつずつ地面に置き、そっと傾けて開けます。長く湾曲したくちばしが出てきて、鳥は数歩ためらったあと、走り出して闇に消えていきました。見守っていた人の何人かは涙ぐんでいて、一人がカラキア——マオリの祈りの言葉——を唱えたと報じられています。

この7羽のうちの1羽が、市民の手でこの街に運ばれた250羽目のキーウィでした。

鳥の名を持つ丘から、鳥が消えていた

ウェリントンの地形には、マオリの言葉で鳥の名が残っています。カウカウ山はもともとタリカーカー、「カーカー(オウムの一種)のいる場所」。カロリはカハロレ、「罠の多い場所」。テ・アフマイランギの尾根はパエフイア、「フイア(すでに絶滅した鳥)の場所」。

入植とともに森が切り払われ、オコジョやイタチが持ち込まれ、丘は静かになりました。人が到達する前、この国には1,200万羽のキーウィがいたと推定されています。いま全国で約7万羽。毎年2%ずつ減っています。ウェリントン周辺からは1世紀以上前に姿を消していました。

1990年代にこの街で育った人たちは、「ヒタキの一種を見かけたら幸運」という程度の環境だったと振り返ります。1999年に市の使われなくなった貯水池のまわりに捕食者よけの柵が張られ、保護区ジーランディアができると、そこから溢れた鳥が街に現れ始めました。

鳥より先に、罠を4年

キーウィを戻すという話が本気になったのは、2010年代の後半でした。ただ、いきなり鳥を放つわけにはいきません。先にオコジョを減らさなければ、放した鳥の子は全滅します。

2017年から、事業を始めた人たちは土地の所有者を一軒ずつ訪ねました。市、電力会社、そしてマカラ近くの5,000ヘクタールの牧場。「自分の土地にキーウィを戻したいですか」という問いには、たいてい即座に「イエス」が返ってきたといいます。創設者は、自分たちが地元の人間で、役所の制服を着ていなかったことが、門を開けてもらううえで大きかったと語っています。ただし所有者が最初に必ず聞いたのは「それはいくらかかるのか」でした。

資金は環境保全省、キーウィ保護団体、政府系の捕食者対策事業、そして民間の寄付から集められました。2019年初めまでに4,600基の罠が敷かれ、そこから3年かけてオコジョを叩き続けます。環境保全省とイウィ(マオリの部族)が「もう鳥を戻していい」と判断できる水準に達するまで、それだけかかりました。

罠の網は24,000ヘクタールに広がっています。国立公園ひとつ分より広く、しかもその大半は私有地です。100人を超える所有者が参加しました。罠を見回るのは山道を走る人、マウンテンバイクに乗る人、家族連れ、学校、そして高齢の住民たち。遠い尾根だけは少人数の有給チームが担当します。

卵を持ち出さない、という選択

キーウィを増やすやり方は、大きく二つあります。巣から卵を持ち出して安全な施設で雛を育てるか、その場所の捕食者を減らして親元で育てさせるか。この事業は後者を選びました。

理由は三つ挙げられています。手間が少ないこと。費用が安いこと。そして——イウィの視点からは、雛と親のあいだのファカパパ(血のつながり、系譜)が保たれることです。

キーウィは、条件さえ整えば自力で生き延びられる鳥です。卵はエミューやダチョウのものとほぼ同じ大きさで、たいていの捕食者の口には入らない。多くの種では雄が巣穴で卵を守ります。成鳥の脚には恐竜のような爪があり、犬とフェレット以外の相手なら追い払える。寿命は50年に及ぶこともあり、一生のうちに自分の代わりを一度残せば個体数は増えていきます。

危険なのは、孵化してから体重1.2キロに達するまでのおよそ40週間だけです。この期間を「戦える体重」に届く前に越えられるかどうか。捕食者対策のない場所では、雛のほぼ9割から10割が食べられてしまい、その最大の犯人がオコジョだと説明されています。

鳥は、贈られてきた

罠が効き始めた2021年、この土地のマナ・フェヌア(土地に権限を持つ部族)であるテ・アティアワ・タラナキ・ファーヌイが、他の地域のイウィとの話し合いを主導しました。キーウィを譲ってもらう話です。

2022年11月、最初の鳥がンガーティ・ヒネワイから贈られて到着しました。その後の鳥は、別の保護区の繁殖事業から、そこを預かるイウィのマナーキタンガ(客をもてなし、守る責任)のもとで送り出されています。2024年3月に放たれた雄の一羽には、事業に関わったテ・アティアワ・タラナキ・ファーヌイの指導者にちなんだ名がつけられました。

創設者は、この事業が三本の柱で立っていると言います。イウィ(土地のイウィと、鳥を贈るイウィの両方)、地主、そして地域。三脚のようなもので、脚を一本外せば倒れる、と。

そして、雛が生まれた

2023年11月、最初の野生の雛が見つかりました。この一帯でおよそ150年ぶりのことです。その雛たちは2024年5月に「戦える体重」に達しました。2024年半ばには約140羽。そして2026年4月、250羽で移送は完了し、これからはここで生まれた鳥が自力で増えていく段階に入ったとされています。

キーウィは夜、深夜のマウンテンバイク乗りに目撃され、住宅の防犯カメラにも映るようになりました。市街地の一部は、飼い猫と飼い犬を除けば哺乳類の捕食者がいない状態になっています。ボランティアは住宅街を見回り、ネズミが1匹現れただけでも把握するといいます。

数字と、終わらない仕事

報道では「雛の生存率90%」という数字が伝えられています。捕食者対策のない場所での5%前後と比べれば劇的です。ただしこの数字は慎重に読む必要があります。発信器は1年ほどで外れる仕組みで、2024年の時点で追跡できていたのは全体の5分の1ほど。母数がどこまでを指すのかは、公表資料からは読み取れません。

そして、成鳥が唯一かなわない相手が、住民自身のペットです。キーウィの成鳥はほとんどの捕食者を追い払えますが、犬とフェレットには勝てない。一噛みで死ぬことがあります。事業地では牧場の作業犬に「キーウィ回避訓練」が行われ、周辺の飼い主にも訓練の機会が提供されていると報じられています。

この危険は抽象的な話ではありません。2025年3月、環境保全省は北島北部のノースランドで9羽のキーウィの死骸が見つかったと発表しました。1月末から3月上旬にかけての発見で、多くに犬による外傷の兆候があり、いくつかは犬のDNA検査ができる状態でした。すべて私有地で見つかっています。同省の担当者は「犬はキーウィの死因の最大のもの」だとして、夜間はとくに犬を管理下に置くよう呼びかけました。2019年には1頭の放し飼いの犬が少なくとも6羽を殺し、飼い主が起訴されて罰金を科されています。※これらはウェリントンではなく別の地域の事例です。

罠かけにも終わりがありません。手を止めればオコジョは戻ってきます。移送された鳥の出どころが、手狭になった保護区だったという事実もあります。「野生に還った」という単純な物語ではない。事業に関わる元レンジャーは、この景観を表す言葉として「改変された(modified)」という婉曲表現を使い、植民地化前には戻らないと率直に述べています。

「保全」と呼びたくない

創設者は、自分たちの仕事を「conservation(保全)」と呼ばれるのを好まないと、現地紙の取材に語ったと報じられています。それではキーウィを博物館のケースに入れるようなものだ、と。

4月28日の日中、7羽の鳥は国会議事堂の大広間に運ばれました。キーウィが議事堂に入ったのは、この時が初めてです。議員と小学生が、初めて間近に見る夜行性の鳥に小声で歓声をあげました。創設者はそこで、この鳥が自分たちに与えてきたものの大きさに触れ、その関係を敬うべきだと市民の代表たちに投げかけたと報じられています。

元レンジャーの言葉が、この事業の性格をよく表しています。自分が働いてきたような無人島でこれをやろうと思えば、罠の網を張ること自体が絶望的な作業になる。けれど街には人がいる。人がいる場所でこそ、種の面倒を見られる。もちろん人がいれば問題も起きる——犬、車、猫。それでも、ほかに選択肢はない。だから行動のほうを変えよう、と。

祈りによせて

この事業でいちばん心に残るのは、250羽という数でも、24,000ヘクタールという広さでもありません。鳥を放つ前に、4年かけて罠を敷いたこと。そして、その鳥が別の土地のイウィから「贈られて」きたことです。

ある保護団体の代表は、世界の絶滅危惧種に対して普通の人ができることは署名か寄付くらいだが、この国には日常の人々が自分の意志で担う動きがある、という趣旨を語ったと報じられています。罠を見回る人たちに給料は出ません。それでも毎週、誰かが線を歩いています。

ウェリントンの丘に、今夜もキーウィの声が響きますように。その声を聞くために手を動かしてきた人たちの労が、静かに報われますように。そして、鳥を送り出した人々と、迎えた人々のあいだの約束が、長く続きますように。

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参考・引用元

  • AP通信「Iconic kiwi birds return to New Zealand's capital」(2026年5月1日、Euronews配信)=4月28日の放鳥と国会での行事の現地取材:euronews.com
  • The Spinoff「How kiwi returned to Wellington」(2024年6月17日、Esme Stark)=ニュージーランドの独立メディアによる事業の経緯の詳報:thespinoff.co.nz
  • ニュージーランド環境保全省(DOC)「DOC urges dog owners to act after nine kiwi killed」(2025年3月19日)=犬によるキーウィの被害についての公式発表:doc.govt.nz

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