大学の卒業証書を手にしても、仕事が見つからない。ヨルダンでは若者の失業率が4割近くにのぼり、その割合は若い女性でさらに高い。高い教育を受けても、卒業と就職のあいだには深い溝がある。その溝の前で立ちすくむのではなく、「技術を使う側から、つくる側へ」まわろうとする若者たちがいる。
「消費者」で終わらないために
ヨルダンでは、若い技術者が育っても、その力が国内で十分に生かされない。優秀な卒業生ほど湾岸や欧米へ職を求めて出ていき、国内のIT産業は成長しても若者を吸収しきれない。しかもその多くは、他産業を下支えする受注仕事に留まりがちだ。アンマンのオープンソース協会(JOSA)を率いるイッサ・マハスネさんは、もっと根深い問題を指摘する。「この地域の多くの人は、自分を技術の"消費者"だと思っている。私たちはその見方を変えたい。私たちには力がある。自分たちを、技術を"つくる側"だと考えるべきだし、その技術で自分たちの地域の問題を解くべきだ」。
利用者から、貢献者へ
JOSAが、スイスの民間財団Drosos財団の支援を受けて立ち上げたのが、若手育成の取り組み「Techween(タクウィーン)」だ。名前は「技術(tech)」と、アラビア語で「創造・形成」を意味する言葉を掛けている。柱は二つ。AIやサイバーセキュリティ、オープンハードなど関心ごとに集う「実践共同体」と、実在するオープンソースの開発現場に見習いとして飛び込む「OpenLab」である。世界中の技術者が寄ってたかって一つのソフトを育てる、あのオープンソースの流儀に、若者が当事者として加わる——ヨルダンや地域では初の試みだという。
初回のOpenLabは、15の枠に250人が応募した。運営側は、機会が首都に偏らないよう、アンマンだけでなくイルビド、ザルカ、アカバからも意図して参加者を選んだ。選ばれた一人、サラ・ハヤリさんは、睡眠の質と心の健康の関係を可視化するダッシュボードを手がけた。もう一人のアフマド・ジャハフさんは、世界中で使われているセキュリティツールのバグを修正した。その経験を、ジャハフさんはこう語る。「技術の"利用者"から、世界のプロが使う道具を改善する"貢献者"に変わった」。誰かが用意したものを受け取るだけの立場から、世界に手を入れる側へ——その一歩が、確かに踏み出されている。
マハスネさんは、この取り組みの答えを「より多くのコードを学ぶこと」だとは考えていない。大切なのは、隣に座る人と協働することを学ぶことだ、と言う。力を一人に集めるのではなく、多くの手に分かち合っていく。ある参加者は、大手プラットフォームへの依存を減らそうと、自宅に自前のメディアサーバーを立てた。小さな自立だが、「与えられたもの」の外側に、自分の場所をつくるという意思がそこにある。
芽吹きの、その先へ
もっとも、希望に居着くにはまだ早い。この取り組みはまだ一年目で、最初の修了生を送り出したばかり。運営者自身、成果を就職者数だけで測ることには慎重だ。機会が首都アンマンに極端に集中する現実も変わっていない——「アンマン以外でIT関連の仕事を見つけるのは、事実上不可能だ」。地方の若い女性にとっては壁がさらに高い。移動や自立をめぐる社会の目、乏しい公共交通、男性に偏った業界の空気があり、そもそも応募すらしない女性が多いという。難民や外国籍の若者には、就労許可や法的制約が重なる。
資金を外部の財団に頼る以上、その支援が終わったあとも自分たちで続けられるか、という問いも残る。それでも、ここで育つのは一つのプロジェクトの成否を超えるものだ。実在の道具を直した経験、共に手を動かした仲間、そして「自分は技術をつくる側にいる」という手応え。それは、たとえ次の一歩がどこへ向かおうと、その人の中に残っていく。
祈りによせて
技術を「使う」だけの側に置かれることは、静かに主体性を手放すことでもある。何を作り、何を直し、どんな問題を解くのか——その決定を、いつも誰か遠くに委ねてしまうことだからだ。ヨルダンの若者たちがしているのは、その決定権を自分たちの手に取り戻すことだ。力を一人に集めるのではなく、隣の人へ、次の街へと分かち合いながら。世界の道具に手を入れ、自分たちの課題を自分たちで解こうとする、その営みのなかに希望がある。希望を持ちながら、その希望に居着かない。溝の前で立ちすくまず、つくる側へ歩き出す若い人々のために、静かに祈りを捧げたい。
ヨルダンの人々のために祈りを捧げる方は、こちらのページへどうぞ。🕊️ ヨルダンのために祈る — 祈りのワールドツアー
参考・引用元
- The New Arab「Techween: Building Jordan’s next generation of tech talent」(2026):newarab.com
- Jordan Open Source Association(JOSA)公式サイト:josa.ngo
- Drosos Foundation「How we work / Partner with us」:drosos.org
- Digital Rights Community「Community Series: JOSA」(2025):digitalrights.community
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