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五島・奈留瀬戸の潮流発電 ― 島の子どもが名づけた「なるミライ」と、3年間の耐久実証

長崎県五島市、久賀島と奈留島のあいだに「奈留瀬戸」と呼ばれる海域があります。潮の通り道で、流れは速いところで秒速3メートルを超えます。潮流発電には秒速1メートル以上の流速が必要とされますから、日本でも指折りの適地です。国はここを海洋再生可能エネルギーの実証フィールドに選定しました。

その水深40メートルの海底に、全長23メートル、重さ960トンの発電機が据えられています。名前を「なるミライ」といいます。付けたのは、島の子どもたちです。

2026年10月、この機械はいったん引き揚げられ、ふたたび同じ海底に戻されます。そこから3年間、止めずに運転を続ける実証が始まります。

海流発電のイメージ

月と太陽が決める発電量

潮の満ち引きは、月と太陽の引力で起こります。だから潮流発電には、太陽光や風力にはない性質があります。いつ、どれだけ発電できるかが前もって分かるのです。天気予報ではなく暦で決まる電気、と言い換えてもいいかもしれません。

発電機は海の中に沈んでいるので、景観を損なわず、台風の影響も受けにくい。一方で、潮は1日に4回、向きを変えます。上げ潮と下げ潮で流れが逆になる海に、どうやって羽根を向け続けるか。ここに技術の要があります。

「なるミライ」は、長さ7.7メートルの複合材の羽根を3枚持っています。羽根は1枚ずつ独立して角度を変えられ、ハブに収めた電動機構が流れの速さに応じてリアルタイムで調整します。取り出せるエネルギーを最大にしながら、機械にかかる力を抑えるためです(ピッチ制御)。さらに、流れが反転するたびに、油圧でロックする機構が発電機の本体ごと向きを回します(ヨー制御)。

この二つを備えたことで、年間の発電量は約241万キロワット時、一般家庭およそ800世帯分と見込まれています。

効率は、9年で3倍以上になった

ここに至るまでには段階がありました。

最初の実証(2019〜2021年度)で使われたのは、出力500キロワットの機械でした。ピッチ制御もヨー制御も持たない仕様で、設備利用率(定格出力でフル稼働した場合に対する実際の発電量の割合)は7.8パーセントと試算されています。潮が強い時間帯しか十分に発電できなかったということです。

この機械の骨格を活かし、英国の製造元が制御機構を組み込んで出力1,100キロワットに改造したのが、いまの「なるミライ」です。同じ場所に1.5メガワット級の制御付き機種を置いた場合の設備利用率は27.8パーセントと試算されており、7.8パーセントから3倍以上に上がったことになります。2メガワット級ならさらに高くなる見込みです。

改造された機械は2025年に海底へ据えられ、同年、経済産業省の認証を得て電力系統への送電を続けています。認証は、さまざまな潮流条件下での性能、緊急停止、系統への適合、非常時の対応を確認したうえで与えられました。先代の500キロワット機は、日本の海で稼働率97パーセントを記録しています。

つまりこの技術は、すでに1年以上、日本の電力網に電気を流しています。

名前を付けたのは、島の子どもたち

事業の記録を読んでいて、目が止まる箇所があります。

発電機の名前は、地元の小中高生から公募されました。64件の応募の中から選ばれたのが「なるミライ」です。報告書には、この名前を応募した生徒が、自然のエネルギーを使った発電で奈留が今よりもっとすばらしく暮らしやすい未来になってほしい、という思いを込めていたと記されています。同時に複数の応募があった「なるくらげ」は、キャラクターの名前として採用されました。

発電機は海底にあるため、見学に来ても実物が見えません。そこで海中の様子を体感できるVR映像がつくられ、報告会の際には地元の漁業関係者や自治体の担当者にも見てもらったといいます。

海を貸したのは、誰か

この事業は、九州電力の子会社が代表となり、国の委託・補助を受けて進められてきました。設計と製造は英国の企業、設置工事は本土の建設会社です。大きな組織が並んでいます。

けれども、発電機が置かれているのは奈留町漁業協同組合の共同漁業権の海域です。海を使う権利を持っているのは島の漁業者で、その了解がなければ、一基も置けません。

報告書によれば、陸上の電気設備の工事を始める前に、周辺の住民を一軒ずつ訪ねて説明し、町内の全世帯に工事の案内を配り、大型車両が通る登下校の時間帯には警備員を置きました。地元の神社では安全祈願祭が行われています。

興味深いのは、漁協が「説明を受ける側」にとどまらなかったことです。工事の映像記録は地元の漁協に依頼され、工事のない日の現地パトロールも担われました。潜水調査の作業船や警戒船も、地元漁協からの傭船です。設置工事は早朝から深夜に及びましたが、長時間労働を避けるため2交代で対応され、関係者からは、この事業を身近に感じられるよい機会になったという声があったと記録されています。

設計したのは外から来た人たちで、受け入れ、夜の海を見張ったのは島の人たちでした。

魚は、減らなかった

設置の前後、潜水士がほぼ1か月おきに海に潜り、周りの魚を記録し続けました。

設置前に見られたメジナ、スズメダイ、イシダイ、カサゴ、キンチャクダイ、アオブダイなどは、設置後も変わらず確認されました。そして月を追うごとに、機械の表面に生物が付着し、それを目当てに魚が集まるようになります。11か月後にはイシダイやメジナの群れに加え、アカハタやクエといった大型の種も見られました。海底部で確認された魚種は、6種から14種に増えています。

人工の構造物が魚礁として働いた、ということです。報告書は、設置が生態系に与える影響は少なかったと結論づけています。

ただし、そこには留保も併記されています。これは1基だけの結果であって、複数を並べる「ファーム化」を行う場合は事業の範囲が広がるため、環境影響の評価は改めて検討し直す必要がある、と。付着した生物についても、1年なら発電に影響しなかったが、長期間運転するなら塗料の選び方や点検の方法を考える必要がある、としています。

残っている壁は、効率ではない

では何が足りないのか。報告書は、推進する側の資料としてはかなり率直に書いています。

第一に、費用です。1.5メガワット機を1基だけ置いた場合の発電単価は、1キロワット時あたり約76円と試算されました。参考として並べられた2021年度の固定価格買取制度の価格は、浮体式洋上風力が36円、地熱が40円、中小水力が34円です。倍以上の開きがあります。

第二に、日本の海は世界の一等地ではありません。同じ機種で比べると、英国の先行事業では設備利用率34〜43パーセント、奈留瀬戸では27.8パーセント。英国のほうが水深が浅く(32.5メートル対41メートル)、潮も速い(定格の流速が秒速3メートル対2.35メートル)ため、より小さな羽根で足ります。条件のよい海と同じようにはいかない、と自ら記しているわけです。

第三に、数を並べても単純には安くならない、という逆説があります。奈留瀬戸に1.5メガワット機を33基置いた場合を試算すると、発電単価は45.6円まで下がります。海底ケーブルも陸上設備も保守の体制も33基で分け合えるからです。ところが設備利用率のほうは、27.8パーセントから21.1パーセントへ落ちます。

理由は二つあります。一つは、瀬戸の中で最も潮の速い場所は限られていて、33基も置けば流れの弱いところにも据えることになるから。もう一つは、前の機械が乱した流れ(後流)が、後ろの機械の発電量を下げるからです。間隔を広げれば後流は避けられますが、そのぶん遅い水域へ出ていくことになります。潮流のエネルギーは流速の3乗に比例するので、速度がわずかに落ちるだけで取れる電気は大きく減ります。

そもそも瀬戸は、二つの海をつなぐ管のようなものです。管の中に抵抗を並べれば、通る水の量そのものが減ります。海峡から取り出せるエネルギーには、潮の強さで決まる天井があるのです。1基あたりの効率を上げることと、海全体から得られる電気を増やすことは、同じではありません。

そして第四に、機械が日本製ではないという課題があります。国内で造れば輸送費も納期も縮まり、地域に仕事が生まれる。しかし調べてみると、欧州の規格で指定された鋼材と性質が完全に一致するJIS材は存在しないことが分かりました。支持構造物は175トン、重しのブロックは3個で615トン。100トンを超える鉄構造物を造れる工場自体が、国内では限られています。設計から見直す必要がある、というのが報告書の結論です。

これから測るのは、時間

10月から始まる3年間の実証は、効率を上げるためのものではありません。設備の信頼性、保守のしやすさ、そして経済性を確かめるためのものです。

海底の機械を引き揚げ、点検し、また沈める。その作業には大きな費用がかかります。だとすれば、何もせずに何年もつのかが、そのまま事業として成り立つかどうかを決めます。これまでの実証はいずれも1年程度でした。今回初めて、年単位で置き続けたときに何が起きるかを見ることになります。

今回の実証には、四国電力が加わりました。瀬戸内海にも潮の速い海域はありますが、そこは同時に船の通り道でもあります。まず条件の整った五島の海で3年学び、それから自分たちの海を考える、という順序です。国が場所を用意し、島の漁協が海を貸し、9年かけて許認可と信頼が積み上げられてきたからこそ、他社が後から乗ることができます。技術より先に、場に投資した人たちがいました。

祈りによせて

潮は、誰の許可も求めずに満ち、引いていきます。奈留瀬戸の流れは、人が発電機を置く前も、置いたあとも、1日に4回向きを変え続けてきました。変わったのは海ではなく、その規則正しさに人の側が合わせようとしたことです。

その歩みは遅く、9年かけて、ようやく「何年もつのか」を測る段階に来たところです。商用化はまだ先にあります。それでも、この海には一つの発電機が沈み、魚が集まり、島の子どもが付けた名前で呼ばれています。

成果が出るより長い時間の中で、手を動かし続ける人たちがいます。奈留の海と島の暮らしが穏やかでありますように。そして、自然の力を借りて生きようとする試みが、その土地の人々の手のうちに留まりますように。

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日本が平和でありますように

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参考・引用元

  • 環境省「潮流発電技術実用化推進事業 成果報告書」(地元協調・漁業共生、経済性評価、国内製造の検討を収録):env.go.jp
  • 環境省「潮流発電について」(五島市久賀島沖の実証フィールドとデータ公開):env.go.jp
  • スマートジャパン「出力1100kWの『潮流発電機』を実海域で実証 九電みらいと四国電力」(2026年6月15日):itmedia.co.jp
  • 五島市「日本初、五島市で大型潮流発電機の実証事業開始」(2021年1月、奈留町漁協の共同漁業権海域への設置):prtimes.jp
  • 東洋建設「自航式多目的船で日本初の商用スケール大型潮流発電機の設置工事を五島列島"奈留瀬戸"で実施」(施工企業の自媒体):toyo-const.co.jp
  • Open Energy Information「Proteus AR1100」(発電機の構造・制御機構の技術情報):openei.org
  • CompositesWorld「Japan certifies Proteus tidal turbine, now exporting power to national grid」(2025年):compositesworld.com
  • 津田宗男ほか「五島海域における潮流特性と潮流発電エネルギー賦存量」土木学会論文集(海洋開発):jstage.jst.go.jp

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