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「サーモンの王国」を、先住民の手に――カナダ・海洋保護区に見る新しい共同管理のかたち

2026年5月、カナダ・ブリティッシュコロンビア州の中央海岸で、6つの先住民族(ファースト・ネーションズ)が、連邦・州政府とともにひとつの海域を「海洋保護区」として設定した。名前は「ミア・ヤルトワ・ハリゾグム・フーン」——先住民の言葉で「サーモンの王国、サーモンの故郷」を意味する。プリンス・エドワード島より広い約6,700平方キロメートルの海に、初めて先住民自身の意思が公式に反映される。

Salmon run in the river
Image by Brigitte Werner from Pixabay

この海域を数千年にわたって見守ってきたのは、ウィキヌッシュ、ヌクサルク、キタソー・ザイザイス、ヘイルツク、ギクサアラ、ギッガアトという6つの民族である。サケ、ニシン、ケルプの森、深海サンゴやスポンジ礁が広がるこの海は、乱獲や違法な底引き網漁、気候変動によって、ここ数十年で目に見えて痩せ細ってきた。保護そのものは以前から議論されてきたが、これまでの海洋保護区は多くの場合、政府や外部の専門家が線引きを主導し、地元の民族は「相談される側」に留まってきた。今回の合意は、その力関係そのものを組み替える試みでもある。

「発言権」を取り戻すまでの数十年

今回の枠組みは、2001年の「グレート・ベア・レインフォレスト協定」(陸の森林保護)を土台に、10年以上にわたる海域調査・協議を経て実現した。特徴的なのは、資金の仕組みだ。単発の助成金に頼ると、保護活動は資金が尽きた時点で立ち消えになりやすい。そこで導入されたのが「プロジェクト・ファイナンス・フォー・パーマネンス」という手法で、カナダ連邦政府(2億ドル)、州政府(6千万ドル)、慈善団体(7,500万ドル)が長期資金を拠出し、17の先住民族が自分たちの裁量で使える体制を作った。資金の管理を担うのは、先住民自身が設立した非営利組織「コースト・ファンズ」である。

キタソー・ザイザイス族の海洋計画コーディネーター、サンタナ・エドガー氏はこう語る。「私たちは漁業を全部止めようとしているわけではありません。食べるための漁を、敬意を持って、持続可能な形で続けられるようにしたいのです」。実際、今回の保護区は漁業を全面的に禁じるものではない。特に生態系への影響が大きい底引き網漁などは制限される一方、選択的な漁や食用の漁は引き続き認められる、多用途のゾーニングが採用されている。同じくキタソー・ザイザイス族のダグ・ニアスロス氏は、地元メディアの取材に「少なくともこの150年で初めて、私たちの民族が海洋管理について公式な発言権を持つことになった」と語っている。かつて違法な密猟や無許可の伐採を取り締まる手段さえ乏しかった海域に、今は先住民自身が設計に加わった監視・管理の仕組みが根づきつつある。

もっとも、すべてが決着したわけではない。境界線の細部や具体的な漁業ルールは、今後数年かけて協議が続く見通しで、管理委員会の設置もこれからだ。地元の商業漁業関係者や一部の政治的立場からは、「漁業や雇用への打撃になるのではないか」という懸念の声も報じられている。海洋生態学者たちは、適切に保護された海域は魚の個体数や大きさをむしろ増やし、周辺の漁場にも恩恵をもたらす「あふれ出し効果」があると指摘するが、長年その海で生計を立ててきた人々にとって、変化への不安が簡単に消えるわけではないだろう。それでも、6つの民族と両政府が同じテーブルで合意にこぎ着けたこと自体が、この海域にとって新しい出発点であることは確かだ。

「サーモンの王国」という名前には、この海を子や孫の世代にも受け渡していくという願いが込められている。誰かに管理を委ねるのではなく、その土地・その海と共に生きてきた人々自身が意思決定の主体であり続けること。それは遠いカナダの海の話であると同時に、世界のどこであっても——たとえ日本の海であっても——考える価値のある問いではないだろうか。

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参考・引用元

  • The Tyee「'One of the Strongest Marine Protected Areas in the World'」(2026年5月26日):thetyee.ca
  • Parks Canada「Mia-yaltwa Ha'lidzogm hoon」公式発表 (2026年5月):parks.canada.ca
  • Biographic「Welcome to the Great Bear Sea」:biographic.com
  • Canada's National Observer(Local Journalism Initiative)漁業関係者の懸念に関する報道:nationalobserver.com

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