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街全体が発電所になる日 ― 日本発「ペロブスカイト太陽電池」が拓く、暮らしの未来

2026年5月11日

solar panel
UnsplashDad hotelが撮影した写真のDad hotelが撮影したイラスト素材

ある朝、目を覚まして窓を開けると、その窓ガラスがそのまま家の電気を生み出しているとしたら。テントの屋根が、防音壁が、ビルの外壁が、その表面で静かに発電を続けているとしたら。そんな未来が、いまの日本では「これから」ではなく「現在進行形」の物語として動き出しています。日本発の発明である「ペロブスカイト太陽電池」をめぐる、希望のニュースを紹介します。

2009年、横浜の小さな研究室から

物語の起点は、2009年の桐蔭横浜大学(横浜市青葉区)にあります。当時の研究室で、宮坂力教授(現・特任教授)と大学院生だった小島陽広氏が、ペロブスカイトという結晶構造の物質を、太陽電池の光吸収材に使うという論文を発表しました。論文の変換効率はわずか3.8%。当時の太陽電池の研究者たちは、効率10%を超える研究にしか目を向けない世界でした。誰も注目しなかった、地味な発見でした。

しかし、3年後の2012年、状況は一変します。宮坂研究室と海外の研究者との学術交流のなかで、英国オックスフォード大学のヘンリー・スネイス教授が、変換効率を10%超まで引き上げた論文を発表したのです。世界中の研究者が、いっせいに振り向きました。日本のひとつの研究室から始まった「ささやかな発見」が、ペロブスカイト太陽電池をめぐる世界的な研究ブームの火種になった瞬間でした。

それから16年。現在のペロブスカイト太陽電池の最高変換効率は、シリコン太陽電池の最高水準(26%)と肩を並べるところまで到達しています。世界の研究者数は3万人を超えると言われます。ノーベル化学賞の有力候補としても、宮坂特任教授の名前は毎年挙がるようになりました。

「街全体を発電所にする」という夢

なぜこの技術が、これほど期待されているのでしょうか。最大の特徴は「軽くて、薄くて、曲がる」こと。フィルム状に作れるため、これまで太陽電池が設置できなかった場所にも貼り付けられるのです。耐荷重の小さい工場の屋根、ビルの壁面、窓ガラス、車の屋根、テントの天面、防音壁。発想が変われば、設置できる場所は無数に広がります。

主原料のヨウ素は日本が世界第2位の生産国であり、純国産でまかなえる強みもあります。海外から資源を輸入し続けてきたこの国にとって、自国の素材で次世代エネルギーを作れるかもしれない、というのは大きな意味を持ちます。

宮坂特任教授が描く未来像は明快です。「ビルの壁や窓、家庭のベランダ、室内、車の屋根。フィルム状で柔軟性に富み、半透明にもできるから、どこにでも貼って発電できる。街の至るところに太陽電池。都市全体が発電所になるのです」。日本のエネルギー自給率100%も夢ではない、と言います。

2025年から2026年 ― 各地で動き出した実証実験

そして2025年から2026年にかけて、ペロブスカイト太陽電池はいよいよ「研究室の中」から「実際の街」へと出始めています。日本各地で、目を見張るような実証実験が次々と動き出しているのです。

2025年6月には、神戸空港の制限区域内に積水化学工業がフィルム型ペロブスカイト太陽電池を設置。空港特有の耐風性能を検証する国内初の実証実験が始まりました。同年10月には、駅ホームの屋根への設置という日本初の試みも始動。2026年1月には、株式会社ベイサンが神奈川県総合防災センターで、災害用エアーテントにペロブスカイト太陽電池を貼り付けて発電する実証を開始しました。曲面に貼れるという特性が、災害時のテント発電という新しい用途を可能にしたのです。

学校体育館の屋根、清水港の沿岸施設、福島県の公共施設、千代田区秋葉原駅前の実証ハウス。全国で実証実験のネットワークが広がっています。政府も2030年までにギガワット級の量産体制を構築し、2040年には20ギガワットの発電規模まで普及させる目標を掲げています。

残されている技術的課題

もちろん、ペロブスカイト太陽電池が「街中の発電所」として広がるためには、いくつもの課題が残されています。一つは耐久性。現状の寿命は10年程度で、25〜30年使えるシリコン太陽電池には及びません。湿気に弱いという物質的な特性があるため、長期使用での性能維持は今後の研究次第です。

もう一つは、主流の組成に鉛が使われている点です。湿気で分解しやすい性質と組み合わさると、長期間の屋外使用で鉛が環境に流出するリスクが指摘されています。中国の研究では、鉛入りペロブスカイトに汚染された土壌で育てた植物に、健康な状態の100%以上の濃度の鉛が蓄積したという報告もあります。これに対して、桐蔭横浜大学・京都大学・筑波大学などでスズ系などを使った「鉛フリー」材料の研究が進んでいます。発明者の宮坂特任教授自身は、「鉛を使わないより、使用済みパネルから鉛を回収する社会システムを構築するほうが現実的」という立場を示しています。

2026年3月には積水化学工業が水田での営農型ペロブスカイト太陽電池の実証も開始しました。農地上空での発電は土地の有効利用として魅力的ですが、鉛流出リスクや、強風時の構造物倒壊といった営農型特有の課題もあるため、長期的な検証が今後の鍵になります。

廃棄とリサイクルをめぐる動き

太陽光発電全体の課題として、使用済みパネルの廃棄問題があります。2030年代後半には、これまで設置されてきた太陽光パネルの大量廃棄が始まり、ピーク時には年間最大50万トンに達すると予測されています。鉛、カドミウム、ヒ素、セレンといった有害物質を含むパネルが不適切に処分されれば、土壌・水質汚染のリスクがあります。

この問題に対して、日本では2026年4月3日、「太陽電池廃棄物の再資源化等の推進に関する法律案」が閣議決定されました。多量の事業用太陽電池を廃棄しようとする者にリサイクルの実施を義務付けるとともに、費用効率的なリサイクル事業の計画を国が認定する制度を創設するものです。同年12月には環境省が「太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン(第三版)」も公表しています。

制度はまだ完全とは言えませんが、廃棄問題に正面から向き合おうとする動きは確実に始まっています。新しい技術が広がる前に、その「終わり方」も社会全体で設計しようとする姿勢は、希望に向かう道を堅実なものにしてくれるはずです。

人と人の交流が生んだ、日本発の希望

これらの課題を抱えながらも、ペロブスカイト太陽電池が世界の脱炭素化への大きな希望であることは、変わらない事実です。海外の競争も激しく、特に中国の研究者数は約1.5万人と日本の15倍に上ります。それでも宮坂特任教授は、日本が技術競争に勝つ秘訣を「人と人とのつながり」に置きます。「人的交流が引き起こすミラクルで、新しい世界が拓かれる」。

実際、ペロブスカイト太陽電池の世界的ブームは、宮坂研究室が海外の研究者を受け入れ、また自分の学生を海外に送り出すという、一見ささやかな交流から生まれました。地味な日々の論文発表と、人と人の出会いが、世界のエネルギー問題への大きな一歩になったのです。

祈りは、未来の電気とともに

世界の平和を願うとき、私たちはエネルギーの問題から目を背けることはできません。エネルギーをめぐる争いは、いまも世界中で続いています。一国がエネルギーを自給できるということは、ほかの国の資源に依存しすぎず、争いの種を一つ減らすことにもつながっていきます。

2026年、日本各地で静かに発電を始めているペロブスカイト太陽電池。研究室の小さな失敗から始まり、人と人の交流のなかで磨かれ、いまや街角の窓や屋根に貼り付けられようとしている技術です。完璧ではない、課題もある。それでも一枚一枚が、未来の暮らしを少しずつ照らしていきます。

大きな声で叫ぶことのない、地道な研究と実証の積み重ね。それを支える研究者、企業、自治体、そして見守る市民の営み。日本発の希望のニュースに、遠くからそっと祈りを重ねたいと思います。

参考・引用

日本が平和でありますように

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