2026年現在、日本に暮らす外国人住民は約400万人にのぼります。これは大阪府の人口に匹敵する規模で、私たちの社会はすでに「多文化が共に生きる社会」へと足を踏み入れています。一方で、言語や生活習慣、文化の違いから生じる小さな誤解、ときに大きなトラブルがニュースになることもあります。共生の理想と現実のあいだに横たわる距離を、どう埋めていけばよいのでしょうか。

その問いに対して、地道な答えを積み重ねている取り組みがあります。NPO法人「アジア人文文化交流促進協会(JII)」が運営する「おとなりさん・ファミリーフレンド・プログラム(OFP)」です。
外国人当事者の手でつくられた制度
JIIは2010年に設立されました。創設者は中国・北京出身で、2001年に留学生として来日した方です。当事者として日本での生活を経験する中で、外国人住民が抱える「情報不足」と「孤立」という二つの大きな壁を実感し、その解消を目指して活動を始めました。
OFPが本格的に立ち上がったのは2019年から2020年にかけて。日本人ボランティア(おとなりさん)と外国人住民が一対一でペアを組み、6か月間にわたって週2〜3時間程度の交流を続ける、というシンプルな仕組みです。すでに500人を超えるボランティアが活動し、40を超える国・地域から外国人住民が参加してきました。
「個別マッチング+継続フォロー」という制度設計
OFPの本質は、単なる交流の場ではなく、丁寧に設計された「制度」にあります。コーディネーターが両者の言語・希望・生活スタイルを丁寧にヒアリングし、信頼関係を築きやすい組み合わせを慎重に選びます。ペア成立後も、専任コーディネーターが月1回のアンケートを通じて活動状況を把握し、必要に応じて専門家(医師、弁護士、保健師など)につなぐサポート体制が整えられています。
活動規約も明確で、家事代行や経済援助、交際目的、宗教・政治勧誘などは厳しく禁じられています。相互の負担や誤解を未然に防ぐ仕組みです。実際、これまで参加者同士のトラブルは発生していないと運営側は報告しています。さらに、難民や避難民、経済的に困難を抱える方には登録費・会費の減免制度も用意され、誰もが参加できる門戸が開かれています。
有効性の手応え — 9割が「友人として続けたい」
有効性を示す指標として注目すべきは、6か月の活動を終えた参加者の約9割が「終了後も友人として交流を続けたい」と回答している事実です。制度的に出会わされた関係が、6か月後には自発的な人間関係へと変わっている。これは、外国人住民の孤立解消という目的に対して、明確な手応えがあることを示しています。
近年、一部の外国人集団によるトラブルや、地域社会との摩擦が報じられることもあります。その背景には、来日後すぐに地域の人と信頼関係を築く機会が極めて限られているという構造的な問題があります。OFPのような「顔が見える一対一の関係」が地域に根付くことは、こうした摩擦を予防する社会的なインフラになりうるのではないでしょうか。
2026年、企業へ — コーポレート・プログラムの始動
OFPの仕組みは、2026年2月、新たな段階へと進みました。企業向けの新事業「おとなりさん・コーポレート・プログラム(OCP)」が始動したのです。これは、外国人社員を受け入れる企業に対して、社員とその家族が安心して暮らせる地域環境づくりを支援する取り組みです。
企業の外国人雇用は、今や中小企業も含めて広がっています。しかし、入社研修だけでは社員の生活面の不安までフォローしきれません。職場で孤立した外国人社員が早期離職してしまう例も少なくない中、OCPは「地域のおとなりさん」と社員をつなぐことで、企業・社員・地域の三者が同時に得るものを生み出そうとしています。これは、OFPで蓄積された個人レベルの知見を、社会システムの一部へと拡張する大きな試みです。
平和は、隣にある
世界の平和を願うとき、私たちはつい遠い国の出来事に目を向けがちです。けれども、平和の最小単位は、自分の隣にいる誰かと心を通わせることから始まるのかもしれません。「おとなりさん」という制度は、そうした最小単位の関係を社会的に支えるしくみとして、6年の歳月をかけて磨かれてきました。
違う言葉、違う文化、違う背景を持つ人と、お茶を飲み、笑い合い、悩みを分かち合う。その積み重ねが、いつか大きな分断を超える力になっていく。日本という多文化共生の最前線で生まれたこの試みが、これからの社会にどう広がっていくのか、静かに期待を寄せたいと思います。
参考:NPO法人アジア人文文化交流促進協会
「おとなりさん・ファミリーフレンド・プログラム」「おとなりさん・コーポレート・プログラム」