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地球でもっとも過酷な土地の微生物が、痩せた大地を蘇らせる — アルゼンチン・プナの物語

アルゼンチン北西部、標高4,000メートルを超えるアンデスの高地に「ラ・プナ」と呼ばれる土地がある。強烈な紫外線が降りそそぎ、昼と夜の寒暖差は激しく、塩の湖が点在する。地球上でもっとも過酷な環境のひとつだ。そんな場所に、35億年前から生き延びてきた微生物がいる。いま、その微生物が、世界中の痩せた土地で作物を育てる力になろうとしている。

南米の塩湖とフラミンゴをイメージ

20年の基礎研究から生まれたもの

世界の土壌の三分の一は、繰り返される耕起や化学肥料の使用によって深刻に劣化しているといわれる。塩害、乾燥、強い日差し——こうした条件下では、一般的な種子処理剤に使われる細菌は死んでしまい、期待されたようには働かない。

ここに、まったく別の発想から取り組んだ研究者たちがいた。アルゼンチン国立科学技術研究会議(CONICET)で、プナの塩湖や火山、ラグーンに生きる細菌を20年にわたって調べてきた微生物学者マリア・エウヘニア・ファリアス氏と、生物工学者カロリーナ・ベルフィオーレ氏である。のちに極限環境微生物学を専門とするエリサ・ベルティーニ氏が加わった。集められた「極限環境微生物(エクストリモファイル)」の菌株は、2,300を超える。

発想はこうだ。標高の高い場所で練習を積んだ選手が、平地ではより強くなる。厳しい環境を生き抜いてきた微生物なら、劣化した土地でも植物を支えられるのではないか。2020年、3人はこの技術を社会に届けるため、トゥクマン州を拠点に「プナ・バイオ」という会社を立ち上げた。

最初の製品「クンサ」は、プナの塩湖から分離された2種類の極限環境微生物からつくられた、大豆・綿花・豆類向けの種子処理剤である。アルゼンチンの国家農牧食品衛生品質局(SENASA)の承認を受け、外部の農学者による30以上の圃場試験で評価された。同社によれば、クンサと小麦・大麦向けの「カンサマ」は、3作期で80万エーカー以上に使われているという。収量の増加率については同社や投資家側から具体的な数字が示されているが、独立した第三者による検証データは限られており、ここでは「同社はそう説明している」という水準にとどめておきたい。

「名古屋」という名の約束

この物語には、日本に暮らす人にとって少し不思議な縁がある。

ある土地の生き物から生まれた技術が、遠い国の企業によって商品になり、利益はすべて外に出ていく——そうした構図は歴史上くり返されてきた。「バイオパイラシー(生物資源の海賊行為)」と呼ばれることもある。これを防ぐために2010年に名古屋で採択されたのが、遺伝資源へのアクセスと、そこから生じる利益の公正で衡平な配分を定めた「名古屋議定書」である。アルゼンチンは2015年、法律第27246号としてこれを批准した。

プナ・バイオは、クンサに使われる細菌についてCONICETとライセンス契約を結び、微生物が採取されたカタマルカ州とは名古屋議定書に基づく協定を交わしている。ファリアス氏は、そこから採られた自然資源を守る約束をしたうえで、CONICETとカタマルカ州の双方が製品の商業化からロイヤリティを受け取る仕組みになっている、と説明している。

州の側も、受け取るだけの立場ではない。カタマルカ州は科学技術生産開発センター(CEDECITCA)を通じて、こうした研究の促進に資金を充てているとされる。2023年には州の環境部局と同社が、極限環境微生物学の研修や科学普及への協力に加え、カタマルカのプナそのものにおける劣化地の回復と新しい作物のための実証試験について話し合っている。採った土地に技術を戻す方向の議論が、少なくともテーブルには載っている。

創業者たちが繰り返し語るのは、人の流れのことだ。科学が研究所の中だけで終わらず企業になれば、優秀な若者は州を出る必要も、国を出る必要もなくなる。企業は税を納め、雇用を生み、やがて世界に輸出する——そうした循環である。技術も、人材も、法的な枠組みも、利益の受け皿も、アルゼンチンの側に軸足が置かれている。

それでも、問いは残る

2025年、同社の資金調達に大手種子企業の投資部門とともにビル&メリンダ・ゲイツ財団が参加した。財団にとってアルゼンチンのスタートアップへの投資は初めてのことで、目的はサブサハラ・アフリカの小規模農家に届く、安価で気候に強い資材の開発だとされる。財団は2025年11月、気候変動の影響を受ける小規模農家の支援に4年で14億ドルを投じると発表しており、この出資はその流れの一部にあたる。

ここは慎重に見ておきたいところだ。同財団がアフリカで進めてきた農業事業をめぐっては、厳しい評価がある。財団自身の資金で実施された2022年の独立評価は、15年にわたる取り組みが小規模農家の所得と食料安全保障を向上させるという看板目標を達成しなかったと結論づけた。批判する人々は、高価な種子や化学肥料を毎季買い続ける仕組みが農家を借金に追い込んだと指摘する。何世代も自分たちで種を採り、分け合ってきた営みが、市場で買うほかない関係に置き換わっていく——それは「豊かになる」という言葉の内側で、決定権が静かに失われていく過程でもある。

ただし、ここには見落としてはならない反転がある。その評価を受けて、ケニアで生物多様性の保全に取り組む活動家アン・マイナ氏は、土壌を改善しない技術の推進をやめるべきだと述べたうえで、土を育て、いまと将来の世代にとって安全で手頃な生物肥料・生物農薬への支援こそ増やすべきだと訴えた。プナ・バイオがつくっているのは、まさにその生物肥料である。批判の的になってきたものではなく、批判する側が代わりに求めてきたものの側に、この技術は立っている。

それでも問いは残る。生物由来であっても、毎季買い足す外部の資材であることに変わりはない。肥料の種類が変わっただけで、依存の構造そのものは残るのではないか。そしてロイヤリティの割合は公表されておらず、「衡平な配分」がどれほどの額なのかを外から検証する手立てはない。配分の窓口は州政府とCONICETであって、プナに暮らす人々一人ひとりに何がどう届いているのかまでは、いまのところ見えてこない。仕組みは確かに作られた。けれど、作られたことと、届いていることは、同じではない。

祈りによせて

痩せた土地でも作物が育つということは、単に収量が増えるという話ではない。その土地を離れずに済むということだ。海外へ働きに出なくてよいということだ。ここで生きていけると言えるということだ。

プナの微生物は、誰にも知られないまま35億年、あの過酷な塩の湖で生き続けてきた。それを見つけた研究者たちは、20年をかけて調べ、名古屋という遠い街で結ばれた約束を頼りに、利益がその土地に戻る道筋をつくろうとしている。完璧ではないし、まだ検証できないことも多い。それでも、何かを見つけた人が「これは誰のものか」と立ち止まったこと自体に、希望の芽があるように思う。世界のあちこちで、そうした立ち止まりが少しずつ増えていきますように。

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参考・引用元

  • AgFunderNews「Gates Foundation invests in Puna Bio to bring extremophile-based ag biologicals to Africa」(2025年7月):agfundernews.com
  • Infocampo「Eugenia, Carolina y Elisa, las científicas que descubrieron microorganismos en la Puna」(2022年11月):infocampo.com.ar
  • Página/12「La puna catamarqueña sería clave para la sustentabilidad de alimentos y la agricultura」(2023年8月):pagina12.com.ar
  • La Gaceta「Puna Bio: fósiles vivos para revolucionar la agricultura」(2023年7月):lagaceta.com.ar
  • El Ancasti「MAEMA junto a Puna Bio y acuerdos de colaboración sobre biodiversidad e investigación」(2023年4月):elancasti.com.ar
  • IATP「Alliance for a Green Revolution in Africa still failing Africa's farmers」(2022年3月):iatp.org
  • アルゼンチン法律第27246号(名古屋議定書の批准):faolex.fao.org

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