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「情報はお金だ」——森を売らないと決めた人々が、いま自分たちの森を測っている

「情報はお金だ」。パプアニューギニアの山あいの高原で、住民たちはそう言うのだという。自分たちの森を調べにやってくる研究者は、そのデータでよそから資金を得られる。けれどその資金は、自分たちには届かない――。地元の指導者マルクス・カジアさんが伝える、人々の率直な警戒である。かつてこの森から運び出されたのは木材だった。いま運び出されようとしているのは、情報だ。

32年をかけて、売らないと決めた

マナガラス高原は、ニューギニア島の北東部、オロ州の奥にある。三方を高い山に守られ、州都ポポンデッタから未舗装の道を5時間ほど揺られてようやくたどり着く。森と草原あわせて214,696ヘクタール。ここには6つの言語集団に属する152のクラン(氏族)が暮らし、人口はおよそ2万2千人と伝えられる。パプアニューギニアでは土地のほぼすべてが慣習的な所有のもとにあり、この高原も例外ではない。誰かの土地でない場所は、ほとんど存在しない。

1980年代半ばから、住民たちは一つの問いをめぐって議論を続けてきた。この土地を伐採や金鉱、アブラヤシ農園のために貸し出すのか、それとも守るのか。答えが出るまでに32年かかった。2017年、共同体の指導者たちは保全を選び、政府は高原のほぼ全域を保全地域として指定した。大規模な伐採や鉱山開発は封じられ、小規模な農業と必要最低限のインフラだけが認められた。パプアニューギニアで保護区に指定されている陸地は全体のわずか4%ほどで、2010年以降に指定された大規模な保護区は、ここだけである。

ただし、この選択は豊かさの上に成り立ったものではない。人々は食べることには困っていない。5万年前に人がこの島へ持ち込んだヤムイモを植え、サツマイモや青菜を育て、クスクスやツリーカンガルーを狩る。週に一度の市場には、数時間歩いて人が集まる。困っているのは現金だ。学費と、医療費。この二つのために、まとまった現金がどうしても要る。重い病気になれば、がたつく車で5時間かけて町へ下りるしかない。

コーヒーは60年前から育てているが、高原での買値は1キロ2〜4キナ(およそ1.2ドル)にしかならない。しかも道が悪く、確実に市場へ運ぶことができない。1980年代にはオカリナッツの事業が数年間うまくいったが、ある日「ポートモレスビーの良い市場が、ぱたりと止まった」と、地元の議員は振り返る。近年はバニラに期待が集まるものの、輸送の壁は今も破れていない。

つまり彼らは、最も手っ取り早く現金が入る道を、自ら塞いだことになる。

「土地の持ち主が、雇われる側になってしまう」

なぜそう決めたのか。財団理事のレイナルド・パシップさんの説明は明快だった。ほとんどのクランの指導者は、現金の支払いと店で買う食料に依存するようになることを避けたかったのだという。自分の土地、自分の資源の所有権を持ち続けたい。「誰かがやって来て所有者になり、土地の持ち主のほうが労働者になってしまう」、そんな事態を避けるために。

避けたい未来は、遠くにあるわけではなかった。高原を下りた先のポポンデッタ周辺は、すでにアブラヤシ農園に覆われている。高原出身の環境弁護士ダミアン・アセさんは言う。「人々はもう伝統的な慣行に従っていません。耕作できる土地のほとんどがアブラヤシに覆われて、伝統的な食べ物を育てられなくなった。ほとんど、店で買う食料に頼っています」。現金は入る。だが、食べ物を自分で育てる力は失われる。

判断のために彼らが用いた方法が、興味深い。支援するNGOとともに、住民は森に入り、自分たちが日々使っているあらゆる植物・動物・自然物のサンプルを集めた。それを村の広場に並べ、一つひとつを店で買ったらいくらになるかを計算した。森を守ることの価値を金額で確かめ、同時に、もし土地を貸すとしたらいくらが妥当なのかを知るために。売らないと決めるために、いったん森をすべてお金に換算してみせたのである。指導者たちはボルネオのサラワクにも足を運んだ。皆伐によって原生林が5%しか残らなかった土地を、自分の目で見るために。

採られるものが、木材から情報へ

指定から9年。いま高原では、152のクランと地元NGOマナガラス保全財団、そして欧州連合の資金を得た研究機関が、大規模な生物多様性の調査に取り組んでいる。何がどこに生きているのか、それは変化しているのか、なぜか。管理計画を実のあるものにするには、その情報が要る。ニューギニア島の生物多様性はアマゾン西部やボルネオに匹敵するとされながら、調査の蓄積は驚くほど乏しい。ある協力者は「パプアニューギニアの鳥のさえずりの録音はごくわずかしかない。録音しに行った人がほとんどいないから」と語る。

ここで冒頭の警戒が立ち上がる。この地域では、数十年にわたって外部の人間が調査に入り、情報を持ち出してきた。その割に、返ってきたものは多くない。追い打ちをかけたのは、前任のNGOが蓄積した重要な記録の多くが、システム障害で失われたことだった。ゼロからやり直すため、住民は同じ質問にもう一度答えなければならない。カジアさんは言う。「情報が失われたせいで、私たちは同じことを繰り返している。人々がもう疲れていることは分かっています」。取材班が訪れたときにも、蝶の写真を撮って売るつもりではないかと疑う住民がいたという。

この不信は、勘ではない。情報が資金に変わり、その資金が誰の手に渡るのかという流れを、正確に言い当てた分析である。そしてこうした警戒は高原に限らない。パプアニューギニアでは全土で個人データの収集に反対の声が強く、その結果として全国的なデータ不足が生じている。出生登録の全国制度はなく、24年間まともな国勢調査ができていない。この国に何人が暮らしているのか、実は誰も正確には知らない。

返ってきた答えの一つが、「測る人を、外から連れてこない」という方針だった。訓練を受けた地元の若者たちが「生物多様性チームリーダー」として、カメラトラップや録音機の設置を担う。携帯電話のアプリで移動と作業を記録し、GPSを頼りに自分たちの土地を歩く。集まったデータは分析され次第コミュニティに共有され、誰もが見られるローカルネットワークに保管される計画だ。高原全体をつなぐ無線網の整備も進んでいる。情報を採られる側から、情報を持つ側へ。移そうとしているのは、そういう位置である。

それでも、まだ道の途中

美しくまとめるには、まだ早い。

調査を率いた生態学者は、チームリーダーたちを「この高原で最も献身的で、保全意識の高い部類に入る若者たち」と評した。裏を返せば、彼らは選ばれた少数である。高原の人口は独立以降の数十年で倍増し、その多くが30歳未満だ。人口が増え伝統的な信仰が変わるなかで、本来は立ち入りを控えるべき「タンブ(禁忌)」の土地についても、禁忌はゆるみつつある。若い世代はそこを菜園や狩り場と見なし、さらには観光収入の源とも見るようになってきた、と現地を取材した記者は書いている。保全財団が、年長者が若者に伝統的な土地の使い方を教える学習センターの建設を計画しているのは、その裏返しでもある。

合意そのものにも綻びがある。高原の東部では、指定に反対する動きが起き、訴訟の可能性が今も残る。恩恵は道路や滑走路に近い地域に届きやすく、遠い集落ほど「取り残された」と感じている。2万2千人を代表しているのは、実質的にほんの数人だ。指定から1年が経ったころ、カジアさんはこう漏らしている。「私は不安です」。

そして、いま集められている情報の先には「生物多様性クレジット」という資金調達の構想がある。森を守ることでお金を得る仕組みだ。それが実現すれば、この高原はもう一度、自分たちの森を市場につなぐことになる。木材でも情報でもなく、「守っていること」そのものを売る。それが依存を生まない形になるのかどうかは、まだ誰にも分からない。

最後に、正直に書いておきたいことがある。この記事を書くにあたって、チームリーダーとして働く若者たち自身の言葉は、どの資料からも見つけられなかった。彼らについて語っているのは外から来た研究者ばかりで、名前すら記録されていない。情報が誰のものかを問う物語のなかで、当の若者たちの声もまた、まだ記録されていないのである。

祈りによせて

この高原の人々が守ろうとしているのは、森であると同時に、決める力そのものなのだと思う。何を植えるか、何を残すか、誰に貸すか貸さないか。その判断を自分たちの手に置いておくこと。学費と薬代のための現金は、確かに切実に要る。それでも、現金が入る代わりに決める力を手放してしまえば、いつか自分の土地で雇われる側になる。彼らはそれを、はっきりと見通していた。

森を売らないために、いったん森をすべて値段に換えてみせた人々がいる。お金の言葉を使って、お金に還元されない領域を守ろうとした人々がいる。その手つきには、私たちが学べるものがある気がする。すべてを市場の物差しで測る時代にあって、測らない領域をどう残すか。遠い高原の問いは、たぶん、どこに暮らす人にとっても他人事ではない。この森と、そこで暮らす人々の歩みが、良い方向へ続いていきますように。

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参考・引用元

  • bioGraphic「Where the Rainforest Meets the Road」(独立系自然科学誌・2019年公開/2025年更新):biographic.com
  • Forests News「What's in a rainforest? Mapping biodiversity in Papua New Guinea」(2026年6月):forestsnews.org
  • Forests News「When 'the field' is a forest: Nuances of data-gathering on Managalas Plateau」(2025年4月):forestsnews.org
  • Forests News「Making Managalas: Consensus for conservation on PNG's Managalas Plateau」(2025年4月):forestsnews.org
  • Rainforest Foundation Norway「Papua New Guinea's Rainforest Biodiversity」:regnskog.no
  • Mongabay「Papua New Guinea gets its largest-ever conservation area」(2017年12月):news.mongabay.com

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