スペインとポルトガルの国境を、ドウロ川(スペイン語ではドゥエロ川)がゆったりと流れる。ワインの名産地として知られるこの渓谷の村々で今、静かな「独立」が進んでいる。軍事でも政治でもない。電気の独立だ。大企業から請求されるまま電気代を払う暮らしから、自分たちで太陽光発電をつくり、所有し、分け合う暮らしへ——。過疎と高齢化に悩む小さな町の人々が立ち上げた越境エネルギー協同組合の物語である。
メガソーラーの波と、置き去りにされる村
ドウロ/ドゥエロ渓谷は、スペイン西部からポルトガル東部へと広がる国境地帯だ。多くの農村地域と同じく、人口流出と失業という課題を抱える。だからこそ、巨大な太陽光発電所(メガソーラー)を建てたい企業にとっては魅力的な土地でもあった。ウクライナでの戦争後、ロシア産ガスへの依存を断とうとする欧州の脱炭素政策が公的資金を呼び込み、この地域の太陽光パネル設置面積はわずか1年(2022〜2023年)で7倍にふくれあがったと報じられている。
けれど、その多くは住民の関与のないまま進む大規模事業だった。土地を手放す地権者が増え、環境に負荷をかけながら、地元には目に見える恩恵が届かない。「自分たちの土地で、自分たちのためにならない開発が進む」——そんな懸念が広がっていた。
77の自治体が、電力会社になった
この流れに、まったく別の答えを出したのが「EfiDuero Energy(エフィドゥエロ・エナジー)」だ。2017年、国境をまたぐ地域協力組織「ドウロ=ドゥエロ欧州地域協力グループ(EGTC)」と、参加する自治体の手で生まれた。スペイン側のサラマンカ、サモラと、ポルトガル側のトラス・オス・モンテス、ドウロなど、両国にまたがる77の自治体が、自分たちが消費する電力を自分たちで管理する側に回ったのだ。イベリア半島で初の「越境型シチズン・エナジー・コミュニティ」であり、数年のうちに地域の主要な電力供給者になった。
2021年から2025年にかけて、学校や役場といった公共建築物の屋根に221か所もの太陽光発電を設置。組合員が消費する電力の74%を、すでに自分たちで生み出すまでになった。理事を務めるホセ・ルイス・パスクアル氏は語る。「私たちはエネルギーの独立まであと一歩のところにいる。それが実現すれば、この地域の人々に無料で電力を生み出せるようになる」。
仕組みは驚くほど開かれている。組合への加入は市民にも地元企業にも開かれ、出資はわずか50ユーロ。「一人一票」の原則で民主的に運営される。電力は組合員に原価で売られ、生活に困窮する世帯には無料で届けられる。電気自動車の充電網も半島最大規模に育ち、その96%は人口500人に満たない小さな町に置かれた。高齢化した住民の移動を支えるため、運転手付きの車も用意されている。
パスクアル氏は、この方法が大がかりな施設を必要としない点を強調する。「私たちには、自治体のものも私有のものも含めて、数えきれないほどの屋根がある。メガソーラーなど建てなくても、必要なエネルギーの100%を生み出すのに十分な容量があるのです」。実際にEfiDueroは「足るを知る(充足)」という原則を掲げ、設置を地域の必要分に限り、既存の建物の屋根を優先して使う。スペインのエネルギー管理機関協会は、2025年の「最優秀エネルギー・コミュニティ」にこの取り組みを選んだ。
国境という壁、それでも
もっとも、道のりは平坦ではない。国境をまたぐがゆえの難しさもある。当初は同じ組織のままスペインとポルトガルの両国で電力小売ができると考えていたが、規制がそれを許さなかった。EfiDueroは2017年からスペインで法人登記しているものの、ポルトガル側での事業化はなお途上で、再エネ設備も当面はスペイン側に置かれている。両国間で電力を分け合えるよう、組合は今、煩雑な手続きを簡素化する法改正を働きかけている。老朽化した送電網の更新を電力会社に促すにも、住民による地道な働きかけが必要だった。
それでもこの渓谷には、もともと国境を越えて市や職人が行き交う市(いち)の伝統があった。協同組合の誕生も、その「共に乗り越える」文化の延長線上にある。EfiDueroの次の一歩は、農村の持続可能な移動。28か所のバス停に太陽光パネルと充電設備を備え、共有の電気自動車を住民に届ける計画が動き出している。
祈りによせて
エネルギーをめぐる物語は、ともすれば国家や巨大企業の力比べとして語られがちだ。けれどイベリアの国境の村々が見せてくれたのは、もっと身近で確かな希望だった。わずか50ユーロと一票を手に、ふつうの人々が「電気を買う側」から「みんなで作り、分け合う側」へと立ち位置を変える。太陽の光は誰のものでもなく、誰のものにもなりうる——その当たり前を、屋根の上の小さなパネルが静かに証明している。奪い合うのではなく、分かち合うことで豊かになれる。そんな未来の縮図が、この渓谷にはある。
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参考・引用元
- REScoop.eu「Success story: A cross-border energy cooperative blossoms in the Iberian peninsula」(2025年12月16日):rescoop.eu
- PR Newswire「EfiDuero Energy rural project named Spain's top energy community of 2025」(2025年9月11日):prnewswire.com
- AECT Duero-Douro(越境地域協力グループ公式):duero-douro.com
- European Commission「Energy communities」:energy.ec.europa.eu